• 四日市工場
      四日市工場
     <工場ルポ>

     2022年4月にENEOS子会社として新たなスタートを切ったENEOSマテリアル。24年4月までに、ENEOS傘下の素材子会社を統合し、グループの素材事業を一元的に担う会社として自立的な経営体制に移行する予定だ。高機能な溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)と高い市場成長率の見込まれる電池用バインダーを、成長を牽引する戦略製品と位置づける。生産拠点として存在感を増す四日市工場(三重県四日市市)を訪ねた。

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     国内初の本格的なスチレンブタジエンゴム生産拠点として1960年に稼働を開始した同工場は、四日市コンビナート南部の第1コンビナートに位置する。近隣にあった三菱化学(現三菱ケミカル)のクラッカーが生産を停止したことから、現在は各種ゴム製品の主原料であるC4留分を、北側の第3コンビナートにある東ソーのプラントなどから船で調達している。

     主な生産品目は、乳化重合スチレンブタジエンゴム(ESBR)やSSBR、ニトリルゴムなどだ。合成ゴムのほか、エラストマー製品として、紙塗工用ラテックスや電池用バインダーなども生産する。

     面積約60万平方メートルの敷地内には、ENEOSグループのロゴを掲げる建物やJSRのロゴを掲げる建物、2つを併記する建物が混在し、ENEOSがJSRのエラストマー事業を買収した経緯が見て取れる。中央付近にブタジエン製造装置がそびえ、東側には原料を貯蔵する球形タンクが立ち並ぶ。西側には重合装置、仕上げ装置、出荷設備などが並んでおり、大まかに東から西へと工程が進む配置になっている。

     年産能力6万トンのSSBR生産設備は高稼働が続く。製造プロセス前半の重合工程では、モノマーを溶かし込んだ有機溶媒中で有機金属触媒を用いて重合した後、熱水に投入してポリマーを粒状に固化させる。生産グレードに応じて条件を調整し、「扱いやすく粒径を制御するところにノウハウが詰まっている」(工場職員)。

    • SSBRのベール
      SSBRのベール
     仕上げ工程では、ポリマーを熱風で乾燥させ、一定量を量り取って押し固めて35キログラムのベールと呼ばれる乳白色の塊として梱包される。梱包や積み出し作業までがほぼ全て自動化されている。

     自動化や省力化に加え、「近年は、人工知能(AI)の導入を含め、デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速している」(鈴木雅人副工場長)。今春には、品質の安定化や省エネ化が見込めるとして、ブタジエン製造装置の運転に横河電機が開発した自律制御AIを正式採用した。鈴木副工場長は、「AIにより自動運転のギアが上がった」と手応えを語る。

     住宅地に隣接した工場であることから、周辺環境への配慮にも継続して取り組む。余剰ガスを燃やすフレアの燃焼音や夜間の発光対策として、炎を筒で覆い隠すグラウンドフレアを導入している。臭気対策としては、においの原因となるガスを加熱して分解する脱臭装置を備える。創業以来、「周囲に重大な影響を与える大きな事故を、一度も起こしていないことを工場の誇りとしている」(鈴木副工場長)。(井上諒)
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