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  • 三洋化成、SAPから撤退 24年度内に全生産停止
  • 2024年3月26日
    • SDPグローバル・三大雅精細化学品(南通)は南通江天化学に全持株譲渡を検討している
      SDPグローバル・三大雅精細化学品(南通)は南通江天化学に全持株譲渡を検討している
     三洋化成は25日、高吸水性樹脂(SAP)事業から撤退すると発表した。SAPは同社売上高全体の約20%を占める。すでにマレーシアでの生産を停止しており、2024年度中に中国の生産拠点を売却。24年度上期にも名古屋工場(愛知県東海市)での生産もやめる。同事業は収益性が悪化しており、23年度には約18億円の赤字を見込んでいる。本社(京都市)で会見した須崎裕之取締役常務執行役員は「汎用製品化が進むSAPの撤退を早期に判断、中期経営計画で掲げる特殊繊維用薬剤などの5高付加価値製品群へ経営資源を集中させる」と話した。

     完全子会社でSAPの開発、製造販売を担うSDPグローバル(東京都港区)およびSDPグローバル(マレーシア)を解散する。中国のSAP生産を担う三大雅精細化学品(南通)有限公司は中国企業である南通江天化学股份有限公司への全持株譲渡を検討している。これにともない数年にわたり特別損失200億円を計上。23年度はうち120億円を計上、08年度以来の最終赤字となる見込み。

     三洋化成グループはSAPで世界6位の年産42万トンの総生産能力を擁するが、収益性が悪化しここ数年は再構築を推進してきた。23年度には、名古屋(同11万トン)のうち、1系列(同4万トン)を休止。中国3プラント(同23万トン)のうち、1プラント(同7万トン)を休止し、現状は全体で約25%減の同31万トン体制としている。

    • 会見する須崎取締役常務執行役員
      会見する須崎取締役常務執行役員
     「安価で製造販売する中国メーカーが増加、供給過剰の状況。技術力も向上しており、原料を持たない三洋化成グループがコスト面で対抗するのは困難となりつつあった」(須崎氏)。そのうえで今回、撤退を決めた。

     中国では不動産不況で建材の市況が悪化、塗料の原料でアクリル酸(AA)の誘導体であるアクリル酸ブチルの需要が減少。より多くのAAがSAPの原料として使用されている。内需を超えたSAPが安価で日本や東南アジア市場などに流入。足元では確かに価格競争が激化している。

     だが、インドなどで子ども用、中国などで大人用おむつの需要が増加。現状、SAPの世界需要は年300万~310万トン程度とみられるが、30年度くらいまでは年率3~5%で成長するとの見方が強い。

     三洋化成が撤退を決断した一方で住友精化は、シンガポール子会社「スミトモ・セイカ・シンガポール」に約1億6000万米ドル(約240億円)を投資、生産能力を現状比2倍の同14万トンとする計画。稼働は25年度下期で、総生産能力は現状の同44万5000トンから52万トンに上がる見通しだ。

     中国メーカーのプレミアムと呼ばれる高級品おむつと住友精化が手がける真球状を特徴としたSAPの相性が良く需要拡大を見込む。また、世界で唯一、逆相懸濁重合法を採用。同法はバッチ式で反応を行うため、反応を制御しやすく、顧客の細かな要求に応えやすい。これらを強みに、アジア全方位で引き続き、SAP事業を強化していく構えだ。

     一方、同71万トンと世界一の生産能力を有する日本触媒では、生産能力増強については検討中としている。「主力事業として継続、強化。欧米系や日系メーカー向け顧客の比率が高いが、インドネシア生産拠点を生かしてアジア市場にも注力していく」(日本触媒)。

     なお、両社ともに三洋化成の撤退にともなう影響は少ないとみている。「中国の比率は低いため、中国市場の影響は限定的」(日本触媒)。「撤退を受けて、直ちに供給依頼が来ている状況ではないが、引き合いがあれば前向きに検討したい」(住友精化)としている。

     また、三洋化成精細化学品(南通)有限公司も生産を停止した。中国における界面活性剤やウレタン樹脂製品等の生産事業から撤退する。三洋化成ではSAPとともにウレタン事業の構造改革も推進。日本では、三井化学とポリウレタン樹脂の主原料であるポリオール事業において折半出資の有限責任事業組合(LLP)を設立するなど、改革を進めている。
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