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  • 三菱ケミカルG、化学で稼ぐ企業に再建 医薬は売却も選択肢
  • 2024年4月17日
    • 今月就任した筑本社長。単独取材に応じ本業の化学で収益をあげ成長を実現すると強調した
      今月就任した筑本社長。単独取材に応じ本業の化学で収益をあげ成長を実現すると強調した
     三菱ケミカルグループは、本業の化学で稼ぐ会社へ再建を急ぐ。事業ポートフォリオを抜本的に再構築するため、医薬事業は主力薬の特許期間が延長され米国で販売が好調なうちに売却の可否を早急に決める。懸案の石化事業は、とくに西日本では三井化学や旭化成などの瀬戸内連合に合流し、年内に有限責任事業組合(LLP)か合弁会社を立ち上げる考えで、次世代の低炭素コンビナートを目指す。売却を検討していた炭素事業は構造改革で立て直す。メチルメタクリレート(MMA)は数千億円規模の投資を要する「米国プロジェクトを成し遂げる」(筑本学社長)覚悟を示す一方、“一丁目一番地”と位置づける高機能材料は「得意とする製品に集中する」(同)。

     今月就任した筑本社長が単独取材に応じ、産業ガスと医薬に依存する収益構造から脱却し「本業の化学で収益をあげ、成長を実現する」と強調した。

     現状、収益源の一つとなっている医薬事業は、筋萎縮性側索硬化症治療薬「ラジカヴァ」経口剤の海外販売が好調だ。米国食品医薬品局(FDA)から7年間の希少疾病用医薬品排他的承認を受け、2029年5月まで、市場を独占できる可能性があるが、パテントクリフ(特許の崖)は確実に訪れる。開発パイプラインが順調に進展すればいいが、開発が停止した場合は補完するために多額の資金を投じて外部から新薬を導入しなければならない。

     カーボンニュートラル実現に向けて本業の化学事業に経営資源を厚く投じることが欠かせないなか、製薬を子会社に抱える難しさが横たわる。また「化学と医薬の事業間シナジーも見いだしづらい」。完全子会社である田辺三菱製薬の「ベストオーナーか明確に判断しないといけない」と語り、売却も選択肢として方向性を早期に決断する意向を示唆した。

     石化はジョンマーク・ギルソン前社長が「スペシャリティマテリアルカンパニー」を掲げ、戦略にそぐわない事業と位置づけて分離に動いていた。しかし、筑本社長は「社会課題を解決するグリーンなスペシャリティマテリアル企業」を構想するとし、「グリーン化を実現するために自社で石化を運営することから逃げない」と語った。

     ただ、石化は国内市場の成熟化や、中国の増産投資などの影響で厳しい事業環境が続き業界再編は喫緊の課題。同社はナフサ分解炉を、茨城県の鹿島地区に保有し、岡山県水島地区で旭化成と共同運営する。西日本で三井化学や旭化成を中心とした瀬戸内連合形成の動きがあり、同社もその連携に加わる。LLPか合弁会社を年内にも立ち上げる方向で協議していく。

     一方、鹿島では石油精製のENEOSと「垂直統合を推進する」。今年、両社共同でケミカルリサイクル(CR)設備の稼働開始を予定する。同設備で産出された軽質留分は石化原料に、重質留分は石油精製で処理する協力体制で、まずはCRを実装する。

     また、鹿島は「エチレンオキサイド(EO)チェーンで複数の新規誘導品企業の誘致活動が進んでいる」といい、川下の拡充も見込む。

     MMAは米ルイジアナ州で新設プロジェクトを進めているが、市場の状況を踏まえ、正式決定を延期してきた。米国は建設費が高騰し、投資額は当初想定から倍程度の数千億円に膨らむ見通しだが、筑本社長は「世界で最も技術力があり、最も二酸化炭素の排出量が少ない製法で、KAITEKIを標榜する会社として実行しなければならない」と語り、具現化に強い意欲をみせた。

     中核とするべき高機能材料は、得意とする製品に集中する。一例としてフォトレジスト用原料ポリマー、半導体装置部品の精密洗浄ビジネス、食品分野のシュガーエステルや包装フィルムなどをあげ、「得意分野に特化しシェアを高め、買収を含め周辺領域を広げていく」戦略だ。

     24年3月期業績予想はコア営業利益が2500億円で、そのうち産業ガス1530億円、ヘルスケア580億円を見通し、両セグメントで80%以上を稼ぐ収益構造。産業ガスと医薬に“おんぶに抱っこ”の状態から、化学で稼ぐ企業に生まれ変われるか、筑本社長の手腕に注目が集まる。
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