BASFのアジア太平洋地域プレジデントにマルセロ・ルー氏が2月1日付で就任した。管轄エリアは、中国こそ別セクションだが、パキスタンから日本、南はニュージーランドに及び、人口、国内総生産(GDP)において著しい成長を見せるインドも擁する。BASF全体の2023年度売上高のうちアジア太平洋地域が占める割合は25%で、非中国は11%だった。足元では原材料価格の下落や需要低迷にともなう販売量減少のあおりを受けたが、中長期に野心的な成長を狙うという同氏に話を聞いた。

     <インド成長期待>

    ▽…アジア太平洋地域はBASFにおいてどのような位置付けですか。

     「今後も高い成長率が見込まれる大変重要なマーケット。とくにインド市場は興味深く、複雑でチャレンジングではあるが非常に多くの機会にあふれている。すでに人口において最大国で、GDPや化学市場の観点で世界5位から7位の規模を誇り、今後も中産階級人口の増加をベースに市場規模は5年ごとに倍増していく。すでに8つの生産拠点とイノベーションキャンパスがあり、南部マンガロールに南アジア最大の生産拠点がある。グジャラート州は化学の集積地として興味深く、この10年大型投資を実施してきた。州政府の投資促進政策をふまえつつ、可能性に満ちた市場で何ができるか真剣に検討を重ねていく」

     「人口ボーナス期にある東南アジアも注視すべき市場だ。世界中の主要企業による投資実績が示す通り、BASFにとっても重要。人口や経済規模に加え再生可能原料が豊富であることも、二酸化炭素(CO2)排出量ネットゼロへ向けた各事業を推進するうえで注目に値する」

     「韓国や日本は、BASFがドイツで経験している状況と極めて類似しており知見を生かすことができる。地域の需要に応じた生産体制を整え、地域のサプライチェーンを構築し、新技術への厳選した投資や新たなビジネス機会も探索していく」

    ▽…東南アジア、インド、日本の各市場において顧客とどのように関係強化を図りますか。

     「BASFはパートナーが事業を通じて目指す未来を重視する。お互いに長い時間と相応の投資金額という貴重なリソースを費やしていくため、事業を厳選し、双方に資する成長計画を描くことが肝心だ。化学産業にはイノベーションを起こす力がある。製造業を中心にあらゆる企業のビジネス革新に貢献してきた歴史があり、これからもその力を発揮し続ける。CO2排出量ネットゼロへの移行も化学産業なしには達成しえない」

    ▽…アジア太平洋地域において、どのように従業員エンゲージメントを向上させますか。

     「域内約2万人の従業員に対し、SNSを通じて化学産業の魅力を発信し、従業員と対面で会話する機会を設けている。優秀な従業員は仕事に報酬だけを求めるのではなく、自らの考えが反映されるなど影響力を持ちたいと考えている。化学は技術革新の母であり、この産業に携わる意義を訴えていく」

     <プレミアム創出>

    ▽…高収益事業を軸に事業ポートフォリオを組み替える企業が多いなかで、世界最大の化学企業であるBASFは汎用品からスペシャリティまで事業を展開しています。コングロマリットをどう捉えていますか。

     「化学産業はシナジーを発揮させ、他産業へのソリューション提供を通して価値を創出し続けることが得意だ。だが伝統的に保守的な業界のため、事業環境の変化に十分に追い付いているか自問自答する必要がある。広範なポートフォリオをディスカウントではなくプレミアムとするには、既存の製品を新たなソリューションで展開し、さらに新たな製品を生み出し続けなければならない。私の役割はアジア太平洋地域にどのような機会があるのかを精査し、経営陣へ投資判断を仰ぎ、この地域でのイニシアチブを握っていくこと」(聞き手=渡邉康広取締役編集局長、山田和子)
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