• 医薬・医療
  • ノーベル生理学・医学賞、mRNA研究の2氏に授与
  • 2023年10月4日
    • カタリン・カリコ博士(左)とドリュー・ワイスマン博士
      カタリン・カリコ博士(左)とドリュー・ワイスマン博士
     スウェーデンのカロリンスカ研究所は2日、2023年のノーベル生理学・医学賞を米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ特任教授と同大のドリュー・ワイスマン教授に授与すると発表した。新型コロナウイルスワクチンで実用化されたメッセンジャーRNA(mRNA)の医療応用の道を拓いた功績が評価された。

     ノーベル賞は前年までの多大な功績につながった研究成果に贈られるケースが多い。mRNAワクチンは20年の新型コロナウイルス流行からわずか1年で開発にこぎ着けた。21年に世界で接種が本格化し、接種後に死亡率が大きく減少したことは明らかで、世界はいまポスト・コロナへと移っている。

     mRNAは今後、従来のワクチン技術を一新する可能性を秘めるだけでなく、他の感染症、がんや難病の治療薬開発にも生かせる。

     mRNAは、生体がたんぱく質を作る際の設計図(遺伝情報)の役割を担っている。遺伝情報は4種の核酸塩基の配列で決まり、核酸配列の設計や合成は工業化が可能だ。このため、体内で有用なたんぱく質を自在に作れるようになれば、医薬品やワクチンに利用できると考えられてきた。

     ところが人工合成したmRNAを体外から取り込むと、もともと備わる免疫システム「Toll様受容体」が異物と認識して過剰な炎症反応が起きる課題があった。mRNAの発見は1961年と古いが、医療応用が実現しなかったのはこのためだ。

     その壁を突破したのが両氏の研究成果だ。4種の核酸の一つ「ウリジン」を化学修飾した「シュードウリジン」に置き換えたmRNAは免疫受容体から逃れられ、炎症反応を抑えられることを05年に発見した。08年には修飾ウリジンのmRNAが生体内で効率良くたんぱく質を生み出すことにも成功した。

     この研究成果に着目したのが独バイオ企業のビオンテックや米モデルナだ。カリコー氏はビオンテックの上級副社長も務めている。がんや遺伝性疾患、がんワクチン、感染症ワクチンの研究開発が始まり、医薬品利用への研究が本格化した。こうした研究実績があったからこそ、コロナワクチンは1年という異例のスピード開発が実現した。

     実用化には日本の研究も大きな貢献を果たした。昨年亡くなった新潟薬科大学の古市泰宏客員教授はmRNAが体内分解されないために重要な役割を持つ「キャップ構造」を解明した。大阪大学の審良静男特任教授はToll様受容体の研究を先導した。ペンシルベニア大の村松浩美博士はカリコ氏らの実験に協力した。
いいね

  • ランキング(健康社会)