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  • 今年度の文化勲章・功労者の研究業績概要
  • 2023年10月25日
  •  今年度の文化勲章受章者である京都大学の玉尾皓平名誉教授と東京大学の谷口維紹名誉教授、文化功労者である自然科学研究機構・基礎生物学研究所の阿形清和所長、東大の荒川泰彦特任教授/名誉教授、東大の河岡義裕特任教授、東大の宮園浩平卓越教授/特別栄誉教授の研究業績の概略は次の通り。

      ◇  ◇  ◇

     <新反応の発見や新化合物を生成>

    • 玉尾氏
      玉尾氏
     玉尾氏は「元素の本質に根差した新物質創成」を研究の基本命題として、とくに有機ケイ素化合物で基礎から応用まで卓越した論理性を備えた独創的な研究手法を創出、数多くの新反応の発見や新化合物の生成を手がけた。1972年のニッケル触媒クロスカップリング反応による新規炭素-炭素結合形成法「熊田-玉尾反応」は触媒的クロスカップリング反応という一大研究分野の礎であり、今日の物質創成にも脈々と受け継がれている。ケイ素の高配位性に着目した炭素-ケイ素結合の過酸化水素酸化によるアルコール合成法「玉尾酸化」は長年の常識を覆し有機ケイ素化合物の合成や化学的有用性を飛躍的に高めた。また、これからの化学に必須な「元素戦略」にも力を注ぐ。

     身近に元素と親しむ「一家に1枚周期表」を提唱、05年の文部科学省が発行する際は制作を主導した。現在も版を重ねる。その後、科学の一般社会への普及活動の一環としてシリーズ化、さまざまな「一家に1枚」が制作された。

    • 谷口氏
      谷口氏
     <「サイトカイン」先鞭築をつける>

     谷口氏は免疫調節分子群「サイトカイン」の研究で世界をリードする日本の先鞭をつけた。世界に先駆けて、ウイルスの増殖を抑制するインターフェロン(IFN-β)とともに免疫応答の中心を担うリンパ球の増殖を担うインターロイキン2(IL-2)の遺伝子単離と分子構造を解明。さらに両者の組み換え型の生産に世界で初めて成功、サイトカインの生物学的製剤の実用化に貢献、現在もがんの免疫療法をはじめとして広く治療薬として使用されている。

     <再生原理を探究内外から高評価>

    • 阿形氏
      阿形氏
     阿形氏は普遍的な再生原理の探究や応用、複合適応形質進化の遺伝子基盤の解明、三次元構造の再構築に取り組んだ。さらにイモリの発生や関節再生、プラナリアの再生・四肢再生・脳などの器官形成に関する研究でも国内外から極めて高い評価を受けている。これらはヒトの再生医療の基礎的知見と位置付けられている。

     <量子ドットと光素子応用で卓越>

    • 荒川氏
      荒川氏
     荒川氏は世界に先駆けて半導体中の電子を三次元的に閉じ込める量子ドットの概念を提案。量子ドットとその光素子の応用研究でも先駆的で卓越した研究を行った。さらに量子ドットレーザー研究では黎明期から実用化まで世界をリード、単一光子発生素子や量子ナノ構造光物性の研究でも高い評価を受けている。

     <世界のインフル対策にも寄与>

    • 河岡氏
      河岡氏
     河岡氏は東大の国際高等研究所・新世代感染症センター機構長、国立国際医療研究センター・国際ウイルス感染症研究センター長、米国ウィスコンシン大学教授も務める。インフルエンザウイルスの基礎から応用を通じた研究から数々の新発見を行い、予防や治療の発展をもたらす知見を集積、世界のインフルエンザ対策に寄与した。また、新型コロナウイルスでも同様の実験手法を用いてさまざまな変異株の病原性と薬剤への反応性を評価、感染モデル動物の開発などを通じてパンデミック(世界的大流行)制圧への貢献が高く評価されている。

    • 宮園氏
      宮園氏
     <TGF-β関連分子の全貌解明>

     宮園氏は現在、理化学研究所理事を務める。とくに細胞の増殖と分化を調節するたんぱく質のTGF-β関連分子の受容体システムの全貌をほぼ解明したことは特筆すべき研究業績である。このシグナル伝達抑制はがんの浸潤や転移を抑えるとされ、難治がんにおける新たな治療戦略として国際的に注目されている。
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