• 環境課題
  • アンヴァール、助成事業の採択相次ぐ 日本財団や都
  • 2023年10月27日
  •  海水からの資源採掘を目指すアンヴァール(静岡県浜松市、櫻井重利社長)が注目されてきた。名古屋大学発スタートアップのシンクモフ(名古屋市千種区、畠岡潤一社長)と組んだプロジェクトが、今年に入り日本財団や東京都の助成プログラムに相次いで採択された。日本財団では大気から二酸化炭素(CO2)を直接回収するダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)に、東京都では海水からの水素生成に挑む。いずれも早期段階のシーズだが「50年後、100年後」(櫻井社長)を見据えて取り組む。

     アンヴァールはヤマハ発動機出身の櫻井社長が2004年に設立した。前職でエネルギー分野の新規事業に関わった経験を生かし、有望な研究シーズを見繕い、特許取得や共同開発を通じた社会実装を目指している。

     タッグを組むのが、名大が開発した金属有機構造体(MOF)の事業化を目指すシンクモフ。MOFは金属と有機分子を組み合わせた立体状の格子型材料で、無数の穴がガスや水分を吸着する。活性炭やゼオライトの代替として期待される。

     この性質を利用したDAC計画が日本財団の「DeepStar連携技術開発助成プログラム」に6月に採択された。DeepStarはシェブロンやシェルといった石油メジャーが参画するコンソーシアムで、日本財団とともに海洋での脱炭素技術を支援している。

     現在提案されているDACの手法はCO2吸収剤にアミン溶剤を使うものが多い。シンクモフとアンヴァールはこれをMOFで代替する。金属と有機分子の組み合わせ次第で高効率にCO2を吸収できる可能性がある。

     将来は回収したCO2を固定するためマグネシウムと燃焼反応させることも検討している。アンヴァールは静岡大学の佐野吉彦教授とともに、海水中に無尽蔵に存在するマグネシウムを、イオン交換膜と電気分解で抽出する研究を続けてきた。

     一方、9月に採択された「東京ベイeSGプロジェクト」では、海水から直接水素を生成する。水を電気分解して水素にする場合、まず塩類や有機物が含まれない純水を得るのが一般的だが、その時点でコストがかさむ。アンヴァールはあえて海水からの直接生成に着目した。イオン交換膜を使うため塩素ガスが発生しないのも利点とされる。発生した水素ガスに含まれる触媒被毒性ガスは、シンクモフのMOF技術で除去する。

     アンヴァールの取り組みは実現すれば画期的だが、櫻井社長自身が「大きな夢」と自認する通り、一朝一夕で完成する技術ではない。例えば電気分解には大量の電力が不可欠だ。櫻井社長は約10年前に慢性骨髄性白血病に冒された過去があり、「がんサバイバーに怖いものなし」の信念が、事業の原動力となっている。
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