<工場ルポ 東ソー・四日市事業所/下>

     カーボンニュートラル(CN)に向けた動き、スペシャリティ領域での収益拡大を目指す全社方針を踏まえ、東ソー四日市事業所(三重県四日市市)が取り組んでいる課題や将来展望について、村田富上席執行役員四日市事業所長に展望を聞く。

     <副生メタンを活用>

    ◆…四日市事業所におけるCNの取り組み状況を教えて下さい。

     「2030年度の温室効果ガス排出量を18年度比30%削減する全社目標の達成に向けてガスタービンの追加設置を検討している。ナフサクラッカーから発生する副生メタンで発電することで、オイルコークス燃料によるボイラーの負荷を下げて二酸化炭素(CO2)を削減することを考えている。カーボンプライシング議論の動向も見極めながら、24年度中には意思決定したい。小規模な省エネ投資にも着手しており、これらを合わせて四日市事業所として27%を削減できるはずだ。残り3%の検討も知恵を絞っていきたい」

    ◆…自治体、近隣各社と連携する「四日市コンビナートカーボンニュートラル化推進委員会」にも参画しています。

     「副生ガス利活用検討部会の部会長として、燃料転換されたときに余るメタンガスや排ガスから回収したCO2の処理方法を近隣各社と協議し始めた。また、水素・アンモニア拠点化検討部会の部会長にも手を挙げた。伊勢湾広域の連携を模索すべく、今年度はどの程度の水素・アンモニア需要が見込めるかを調査する」

     <広大な用地生かす>

    ◆…課題認識と四日市事業所の方針は。

     「全社方針に関連して、スペシャリティ領域の比率向上による収益拡大は、石化が中心の四日市事業所にとっては課題だ。09年にハイシリカゼオライト、ジルコニア粉末の生産を始め、能増も実施したが、それ以降は生産品種が増えていない。30万平方メートルの将来用地があるので、BCP(事業継続性)の観点から分離精製剤『トヨパール』を生産したり、創薬や再生医療に貢献する開発品『2・5次元培養器材』などを新たな製品群に加えることで活用したい。南陽事業所(山口県周南市)の用地がなくなってきているので、四日市の事業用地が有力候補になる」

    ◆…人材育成の取り組みは。

     「ベテランの団塊世代が定年退職したが、若手世代への技術継承は円滑にできた。15年前の従業員平均年齢は45歳だったが、いまは33歳と若手の方が多い。このため、緊急時対応の研修にとくに力を入れている。挙動を忠実に再現した各プラントのプロセスシミュレーターやVR(仮想現実)も使った危険体感・模擬体験装置、可燃性ガスの爆発体験装置などを研修に導入している」

    • 挙動を忠実に再現した各プラントのプロセスシミュレーターやVRを使った研修を導入している
      挙動を忠実に再現した各プラントのプロセスシミュレーターやVRを使った研修を導入している
     <DX化も積極的に>

    ◆…デジタルトランスフォーメーション(DX)導入の進捗は。

     「5月末にIT戦略室をIT統括部に改組した。高度制御システムをエチレン、芳香族プラントに導入し、今後はキュメン設備にも取り入れる。エネルギー効率が高まり省エネ効果が期待できる。このほか、トラブルの予兆診断・早期発見に役立てる目的で無線式振動センサーを回転機器を中心に105台設置して振動や温度を測定している。また、設備管理員100人へカメラ付きタブレット端末を配布して、工事進捗状況の情報共有を効率化した。さらに製造係員と協力会社員に範囲を広げることも検討している。こうした取り組みの効果検証を24年の大規模定修時に実施する」

     <耐震化や防護柵も>

    ◆…南海トラフ地震が30年以内に高確率で発生するといわれています。

     「ブラックアウト、人命確保などを目的とした第5次地震津波対策が24年に完了する。人命確保策として耐震工事を事務所、計器室に続いて協力会社員が入居する建物でも行う。また、長納期品の予備品を在庫することや津波の漂流物が設備・機器に衝突することを防ぐ防護柵を建設しているなど稼働の早期再開策も講じている」(聞き手=石川亮)
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