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  • ファイザー、新興感染症ワクチン 全国民分供給へ生産能力予約契約を
  • 2024年1月24日
    • ファイザー日本法人の原田社長
      ファイザー日本法人の原田社長
     ファイザーが、新興感染症に対するワクチンを短期間に全国民分を供給する手段として、「キャパシティリザベーション(生産能力予約契約)」の導入を提唱している。生産能力予約契約は、好・不況を繰り返す半導体産業に普及する契約形態で、半導体メーカーは需要予測を部素材企業と共有して長期間の契約を結び、部素材企業はそれに備えて設備投資し生産を準備する。新興感染症も半導体と同様に需要の不確実性をともなう。政府と製薬会社が供給契約をあらかじめ結んでおけば、企業は平時からワクチンの安定供給体制を準備しやすいという発想がある。

     日本政府も新型コロナウイルスのワクチン開発で米欧に出遅れた教訓を踏まえ、メッセンジャーRNA(mRNA)や遺伝子組み換えたんぱく質などのワクチンの国産化整備に乗り出している。全国民のワクチン確保を目指して原料や部素材からワクチンまで一貫したサプライチェーンを作り、補助金は数千億円に上る。補助金で設置した設備は、平時は他の事業に転用し、パンデミック事にはワクチン生産に切り替える「デュアルユース」という仕組みを活用する。

     ファイザーが導入を提唱する生産能力予約契約も、平時は他の製品を生産するなどデュアルユースと仕組みは似ているが、まず異なるのは補助金を活用しないこと。ファイザー日本法人(東京都渋谷区)の原田明久社長は「補助金の枠組みでは1億2000万人分を一挙に生産・供給できない可能性がある」と指摘する。

     半導体の生産能力予約契約は、長期契約に基づいて部素材企業が設備投資を行うことが多く、半導体メーカーが肩代わりするケースもあるなど契約スキームはさまざま。予約契約の基本にあるのは、将来需要に基づいてサプライチェーンにかかわるすべての企業が発注、製造、供給などを約束する点にある。ワクチンに当てはめれば、製薬会社が原薬や製造に用いる部材、生産設備などの供給網を責任を持ってあらかじめ構築することになる。

     今回のデュアルユースの補助金をめぐっては、コロナ流行が収束しmRNAワクチン需要も急速に縮小するなか、平時の事業継続が困難と判断し、補助金を辞退する企業が出ている。日本政府は2009年に発生した新型インフルエンザを踏まえて細胞培養ワクチンの生産体制を補助金で整備したが、今回の新型コロナ流行時にワクチン供給に活用したのは一部の企業にとどまった。

     原田社長は「新興感染症に対して、mRNAワクチンが非常に強力なツールになることはある程度証明できた」と話し、今後もmRNAがパンデミック時ワクチンの有力候補との考え方も背景にある。世界では欧州委員会が昨年6月にファイザーと生産予約契約を結び、他の製薬会社との契約も含めて3億2500万回分のワクチンについてパンデミック時に供給を受けられる準備をした。

     「まずは政府をはじめ関係者に生産能力予約契約について理解してもらう働きかけを行っていく」と原田社長は述べ、提案を始めている。米ファイザーはmRNAワクチンの製造・供給を欧米拠点で手がけているが、日本の全国民分のワクチンを供給する拠点は「日本にあった方が良い」との考えで、愛知県内に構える名古屋工場をmRNAの量産設備を導入する拠点として視野に入れている。(三枝寿一)
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