• 環境課題
  • 三井物産、ブラジルでバイオ供給網 26年めどにリグニンなど
  • 2024年2月7日
     三井物産は、パルプメーカー世界最大手の伯スザノと連携し、ブラジルでバイオ化学品や次世代燃料などのバイオマテリアルチェーンを構築する。2026年をめどとした短期プロジェクトではパルプ残渣を濃縮分離したリグニンやバイオメタノール、セルロースを製造し、化学品原料などとして供給する。30年近傍を想定する第2フェーズではウッドチップを熱分解したバイオオイルや、グリーン水素とバイオ二酸化炭素(CO2)によるeメタノール(合成燃料)などへ展開したい考え。世界屈指の原料競争力を生かし、森林資源事業のステージを一段引き上げる。

     今年1月、スザノとバイオ化学品や燃料など各種誘導品の製造・販売事業の共同検討に関する基本合意書を締結した。両社は23年3月に覚書き(MOU)を締結して以降、事業化調査(FS)を進めて共同事業化テーマを絞り込んできた。

     スザノは世界最大規模の260万ヘクタールの広葉樹ユーカリの森林資源(160万ヘクタールが植林)を有し、足下のパルプ生産能力は1090万トン。今年6月に第8工場が立ち上がるとさらに2割増え1345万トンまで引き上がり、22年度の日本のパルプ生産量(774万トン)の約2倍の供給能力を獲得する。

    • スザノの広大な森林資源(ユーカリ広葉樹の植林)
      スザノの広大な森林資源(ユーカリ広葉樹の植林)
     強みは原料競争力で、同社のユーカリ植林木は6~7年の短期で成長し、伐期を迎える。土壌や天候に適した種苗を開発するなどパルプ生産コストは世界トップクラスを誇り、本業のもうけを示す利払い・税引き・償却前利益(EBITDA)率は22年度で57%。従来は原木を住宅建材向けの製材にしたり、パルプにして紙や段ボール紙向けに供給してきたが、より付加価値の高いバイオ化学品などの生産で事業競争力を高めるべく、バイオ技術などの知見を持つ三井物産との共同投資や事業化を含むサプライチェーン(SC)構築に乗り出す。

     両社は提携期間をまずは3年に設定し、既存の製紙工程に付随したバイオケミカルなどの事業化に取り組む。パルプ残渣は発電や熱源原料として利用してきたが、濃縮分離することでリグニンに誘導。三井物産はアスファルトやコンクリート混和剤、さらにはフェノール誘導体などへと展開したい考え。リグニン濃縮過程で生じる副生ガスを回収・精製することでバイオメタノールも製造。初期は船舶燃料向けを念頭に置き、26年にも現地に年産2万トン規模の工場を設ける。将来的には20万トン規模まで能力を引き上げ、日系化学メーカーへの供給も視野に入る。

    • 土壌や天候に配慮した種苗を開発(スザノのユーカリ種苗場)
      土壌や天候に配慮した種苗を開発(スザノのユーカリ種苗場)
     パルプ自体もセルロースを経由してバイオエタノールや複合材料へと誘導する。前者は微生物で糖化・発酵することで非可食の第2世代バイオエタノールへ誘導。三井物産が出資する米ランザジェットの技術を活用した持続可能な航空燃料(SAF)や、脱水によりバイオエチレンへ展開する。ナノセルロースやマイクロフィブリル化セルロースなど繊維化し、バイオ複合材の需要にも応える。

     中長期ではパルプ工程から離れ、森林残渣(ウッドチップ)を直接熱分解してバイオオイル、さらにはバイオナフサへも誘導する。次世代のガス化・メタノール合成技術を採り入れたバイオメタノール製造も検討課題となる。エタノール製造にともない排出されるバイオCO2と現地のグリーン水素を用いたeメタノールや合成燃料も検討の俎上に載せる。

     三井物産は森林資源を食料と競合しないサステイナブルなバイオマスと捉え、事業拡大に努めている。16年には世界第2位の森林アセットマネジメント事業者の豪州ニューフォレスツに出資し、23年に筆頭株主となった。スザノとの戦略連携でバイオマテリアルを化学品事業の中軸へ押し上げる。
いいね

  • ランキング(持続可能社会)