• 御殿場事業所でsiRNA医薬の創薬研究に集中的に取り組んでいる
      御殿場事業所でsiRNA医薬の創薬研究に集中的に取り組んでいる
     持田製薬は、核酸医薬の一つ「RNA干渉薬(siRNA医薬)」を連続的に作り出せる自社創薬プラットホームを構築した。新薬候補物質のプロジェクトが複数立ち上がり、2~3年内に安全性を検証する非臨床試験などの「GLP試験」を始める計画だ。GLP試験の結果を踏まえ、国際的に新薬開発を手がける製薬大手と提携を目指す。度重なる薬価引き下げで日本の医薬品市場が縮小均衡となるなか、海外に成長機会を求める。

     持田製薬にとって自社創薬は再挑戦となる。約30年にわたり低分子医薬品の創薬研究に取り組んだが、日の目を見ず、2017年に縮小した経緯がある。一方で薬価が毎年下がる日本で製薬会社が持続的な収益成長を描くには、他社からの導入品に比べて利益率の高い自社新薬を創製し、さらに米国など海外に展開する必要がある。

     そこで同社は21年に自社創薬研究を再開した。膨大な研究開発投資のかかる低分子薬ではなく、核酸医薬の一種、siRNA医薬に照準を当てる。siRNA医薬は病気の原因たんぱく質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)をピンポイントに分解する2本鎖のRNAで、標的の遺伝子配列が分かれば短期間に新薬候補を設計できる特徴がある。

     ただし、siRNAは生体内に投与すると壊れやすく、00年代初頭に創薬研究が盛んになったが、医薬品応用がなかなか進まず、ほとんどの製薬会社が創薬を中断した。そのなかで米バイオ製薬アルナイラム・ファーマシューティカルズがその壁を突破し、18年に世界初のsiRNA医薬を実用化。現在までに6製品が米国など世界で承認され、研究開発案件も増えている。

     アルナイラムを中心に技術開発が進んだsiRNA医薬の基本的な特許は満了しているものが多く、持田製薬はまず、こうした既知の技術を駆使して創薬に取り組む。生体内で安定化するための修飾核酸はすでに存在する複数の技術を組み合わせて使う。

     siRNA薬は、病気の標的の遺伝子配列に相補的に結合する塩基配列の探索がカギになる。同社は最も活性に優れる結合部位を予測し設計するプラットホーム技術を独自に確立した。研究担当の根津淳一常務執行役員は、医薬品に仕上げる「基本技術は先行企業にすでに追いつき、新薬候補も作り出せるようになってきた」と話す。

     siRNA医薬の利点の一つは、投薬の回数を3カ月や半年に1回と少なくできること。21年に高コレステロール血症治療薬として米国承認されたsiRNA医薬は標的は従来の抗体医薬と同じだが、投与頻度を少なくできる利便性などが評価されて、売上高10億ドルを超えるブロックバスター化が見込まれている。

     既存薬のある疾患でも、利便性や安全性、有効性など医療上の付加価値を発揮できれば新薬を投入する意義がある。製薬会社として培う医学分野でのノウハウを生かし、創薬対象の疾患を絞る。疾患の標的の研究が進んでいるため、siRNA医薬を創薬しやすい。すでに複数の新薬候補を創製しており、早ければ2~3年以内にGLP試験を開始する予定。

     GLP試験と同時並行で製薬大手との交渉に乗り出す。製薬大手と連携してグローバル開発の道筋を付け、研究開発の進展に応じて受け取るマイルストン収入で収益につなげるビジネスモデルを描く。海外販売は提携先に委ね、日本での事業化権利は確保し、国内事業の強化を図る。

     毎年の薬価引き下げなどが影響し、持田製薬の売上高は近年、1000億~1100億円の水準で推移し、伸び悩みが続く。31年を目標とする長期ビジョンでは売上高を1400億円に引き上げる計画を打ち出した。このうち核酸や遺伝子、再生医療など新たな創薬モダリティによる医薬品事業やバイオマテリアル事業で400億円程度を稼ぐ方針だ。
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