• 公開セミナーのようす
      公開セミナーのようす
     <企画記事>

     人材不足が深刻な課題となっている医療現場。中でも看護師は、療養患者に直に接する「直接ケア」から看護実務の記録など各種書類を作成する「間接ケア」まで業務が多岐にわたり、労働環境の改善が急務だ。こうした中、文部科学省/科学技術振興機構による「共創の場形成支援プログラム」川崎拠点(プロジェクトCHANGE)では、看護現場の課題を工学的な技術で解決する医工看連携によるイノベーション創出に本腰を入れている。2024年に創設した「かわさきケアデザインコンソーシアム(ケアさき)」では、昨年12月にケア関連製品の社会実装を目指す企業関係者に向けた公開セミナーを川崎市内で開催し、川崎市立看護大学の掛田崇寛教授と川崎市看護協会の八木美智子常務理事が看護現場の実態について講演した。

     看護師の人材確保が喫緊の課題だ。日本医療労働組合連合会による看護職員の実態調査(2025年)では、約6割の施設で退職者が新入職員数を上回り、前年度より少ない人員体制を余儀なくされている。掛田教授は、国内に約70万人いると言われている「看護師の資格を持ちながらも現場から遠ざかっている潜在看護師が現場に戻れる環境を整えるべき」と話す。

     また、高齢化にともない医療体制が病院から在宅にシフトしている現状にも触れ、「訪問看護は訪問回数を増やすことで収益性を上げるビジネスモデル。移動時間や遠隔地への訪問に課題がある」と説明。「在宅医療の新規事業参入は障壁や規制も多いがブルーオーシャンにもなりうる」との認識を示した。

     八木常務理事は、看護師が現場で日々直面するさまざまな事例を取り上げ、看護業務を支援するイノベーションに期待を寄せる。ヒトの尊厳にもかかわる排泄介助を一例として挙げ、病棟では看護師の人数が限られるため、自力でトイレに行けない患者はベッドサイドで配布されたポータブルトイレを使用する場合もあり、「においや音など、患者さんはどれだけ嫌な思いをされているのかと思う。本来であれば介助したいが、それでは仕事が回らない。何かアイデアはないか」と投げかけた。

     スタッフの数が減る夜勤業務は特に重労働となる。各病室を回る際には原則1人で懐中電灯の灯りを頼りに点滴交換など日勤と同様の業務をこなさなくてはならない。緊急入院や翌日の退院といったイベント発生時には時間外労働もともなう。

     こうした看護のプロセスには、間接ケアに相当する膨大な書類作成業務がともなう。患者さん一人一人で異なる入院診察計画書、退院支援計画書の作成、褥瘡発生や転倒転落といった各種アセスメントリスク、身体拘束にかかわる同意書、インシデント報告のレポートなど多岐にわたる一方、診療報酬や訴訟への対応にもつながる重要な業務だ。よりシステマティックな業務効率化が求められている。八木常務理事は、「技術の進歩で患者さんのハッピーにつながるのが私たちの願い」と締めくくった。

    • 川崎市看護協会の堀田会長
      川崎市看護協会の堀田会長
     川崎市看護協会の堀田彰恵会長は、「看護師の大半は患者さんに心が通ったケアがしたいとの思いで働いているが、現場では記録業務などベッドサイドではない場所での業務に追われている」と実態を説明する。「そこを工学的な技術による省力化に期待したい。ケア自体にも体力を要する場面があり、負担軽減できればやりがいをそのままに看護職を長く続けていただける」と話す。また、訪問看護では看護師1人で訪問する場合が多いため、「患者さんの状態がすぐに把握できる看護師用のエコー機器があればと思っている。医師が扱う高価なものでなく、より安価で自転車でも持ち運びできるコンパクトサイズの機器があれば、医師に状況をすぐに報告できる」と簡便性を重視した新製品の登場に期待を寄せる。

    • プロジェクトCHANGEの一木リーダー
      プロジェクトCHANGEの一木リーダー
     プロジェクトCHANGEの一木隆範リーダー(東京大学大学院工学系研究科教授)は、「本拠点の強みは看護現場との緊密な連携と、川崎市産業振興財団が代表機関を務めることにある」と言う。「大学での研究成果を速やかに社会実装する上でこの強みは重要。24年にかわさきケアデザインコンソーシアムを立ち上げ40社近い企業を誘致した。試作品を看護現場で評価し企業に迅速なフィードバックが行えるのは大きい」と川崎市にプロジェクト運営の拠点と実証研究の場を設けたことの意義について語った。

    • シンポジウムの詳細や申し込みはこちらから
      シンポジウムの詳細や申し込みはこちらから
     同プロジェクトは、3月5日に川崎市産業振興会館で年次シンポジウムを開催予定。看護×工学に関し海外の研究者を基調講演に招き、プロジェクトメンバーとの意見交換をする他、未来を担う大学生・高校生をもパネリストに加えて医工看連携の将来を語り合う。詳細ならび事前参加登録は右記のQRコードから。
いいね
電子版無料トライアル

  • ランキング(健康社会)