米エクソンモービルが4月に稼働させた中国・恵州(広東省)のエチレン設備
<逆風 アジア石化/上>
アジア市場で石油化学製品の苦境が続いている。最大消費地の中国で景気低迷下でも石化製品の増産ラッシュが続き、同国の基礎化学品エチレンの生産能力は2025年に日本の約10倍に達する見通しだ。米国内で産出されるコスト競争力を持つシェールガス由来の原料を使ったポリエチレン(PE)などもアジア市場に流入する。日本や韓国などは内需が減少傾向にあり、需給が大きく緩む環境下でも輸出に一定量を頼らざるを得ない状況にある。
2024年、日本のエチレン生産量は498万トンと37年ぶりに500万トンを割り込んだ。エチレン設備の年平均稼働率は79・8%で、25年5月まで34カ月連続で好不況の目安とされる90%を下回っている。低稼働率を余儀なくされているのはアジアの近隣諸国・地域も同様で、24年の平均稼働率は韓国が80・3%、台湾が64・8%、タイが85・4%と、いずれも90%を割り込んだ。
アジア市場で石化製品の低迷が続く主因の一つが内需の減少だ。日本プラスチック工業連盟(プラ工連)のまとめによると、日本のPEの24年販売量は198万トンで、新型コロナウイルス禍前の19年に比べて2割減った。新型コロナ禍にともなう持ち帰り需要などを受けて21年は244万トンとやや持ち直したが、長期的には減少トレンドが続く。
PEなど汎用プラスチック全般の需要を目減りさせる背景に、人口減や少子高齢化の進展、コンビニエンスストアやスーパーなどの小売りでのフードロス対策や「ジャスト・イン・タイム」の受発注・配送体制の構築、レジ袋の有料化、食品包装容器の軽量化・薄肉化といった複数の要因が挙げられる。韓国も出生率が世界最低水準で、少子化が進んでいる。
現状で日本のエチレン生産能力は年616万トン(定期修理実施年ベース)、韓国は1300万トン程度、台湾は400万トン程度で、内需を上回る生産能力を抱える。稼働率を維持する上でも輸出に頼らざるを得ず、日本や台湾は24年もPE、ポリプロピレン(PP)で年50万~60万トン、韓国は年400万トン程度を輸出に振り向けた。両製品の国内生産に占める輸出比率は日本が2割強、韓国や台湾は6~7割に上る。エチレンでも日本は年50万トン強、韓国は180万トン強を輸出し、大半が中国に向かった。
アジア最大の石化製品の消費地である中国も景気低迷を受けて、24年はPEの消費の伸び率が5%程度にとどまったとされる。それでも同年は年間1673万トンを輸入し、輸入から輸出を差し引いた純輸入量は1500万トンと大幅な輸入超の状況にある。
米国産のPEなどの石化製品も一定量がアジア市場に流入する。10年代のシェール革命によって石油や天然ガスの一大生産国となった同国では、シェール由来の安価な原料を使った石化製品の生産能力が大幅に拡大した。代表的なPEでは24年には年1461万トンが輸出され、このうち約2割が中国向けだ。ただ、米中の関税応酬の影響もあり中国の米国産PEの輸入量は25年4月に入って大幅に減っている状況だ。
中国ではPEの輸入超過が続く一方、プラスチック全体でみると輸出量が拡大している。プラ工連によると、24年はプラスチックの輸入量2898万トンに対し、輸出量は年2565万トンだった。輸入から輸出を差し引いた純輸入量は333万トンで大幅に縮小している。同国内の内需低迷が続く中で生産能力の拡大が着実に進み、多くの石化製品が輸出に振り向けられている様子がうかがえる。
とくに輸出が大幅に伸びているのがPPだ。19年に42万トンだった輸出量は24年に246万トンとわずか5年で5・8倍に拡大した。中国でプロパンからプロピレンを生産するプロパン脱水素(PDH)設備の新増設が相次ぎ、プロピレンの誘導品であるPPも増産が進んだことが背景にある。
25年に入ってからは、単月では3月、5月と輸出が輸入を上回る輸出超過に転じる月もある。「PPは内需に見合う生産能力がすでにあり、25年は年間ベースで輸出超過になる可能性もある」(総合商社)と指摘する声もある。
中国は同国政府が15年に大々的に打ち上げた産業強化戦略「中国製造2025」のもとで、石化製品の大増産に踏み切った。台湾の業界団体、台湾石油化学工業同業公会(PIAT)は25年に同国のエチレン生産能力が780万トン増え、6000万トン台の大台に乗せると予測する。
中国のエチレン生産能力は3000万トン程度とされた19年から6年で2倍に拡大し、日本の約10倍に達する。中国では26~28年にかけてもエチレン設備の新増設が控える。今後完成予定の計画を足し合わせると、28年頃には7000万トン台半ばから8000万トン近くまで拡大する。実に日本の12倍に相当する規模だ。