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  • 能登半島地震、化学産業を直撃 供給網寸断に懸念も
  • 2024年1月9日
    • 被災地で活躍する医薬品卸ファイネスの災害対策車両
      被災地で活躍する医薬品卸ファイネスの災害対策車両
     石川県の能登半島を元日に襲った地震は、ものづくりの現場も直撃した。年末年始で工場の操業を止めていた企業も多く、人的被害は軽微で済んだが、日産化学は富山工場(富山市)のアンモニアの製造設備が被災し、日本ゼオンもフィルム工場などで復旧のめどが立たない。安全確認で数日間の設備停止を余儀なくされた工場も多数あり、正常に稼働している工場についても物流網の寸断などで今後の製品出荷に支障が出る可能性を危惧する声がある。【9面に関連記事】

     ナイロンやポリエステル長繊維、炭素繊維プリプレグなどを製造する東レの石川工場(能美市)。地震発生後に稼働を止め、5日時点で安全確認作業が続く。「余震も続くなかで稼働再開時期は不明確。確認完了次第設備を立ち上げたい」(広報)とし、本格復旧は9日の連休明け以降となる模様だ。

     北陸地域に複数のグループ会社を持つ日本ゼオンは敦賀工場(福井県)こそ設備異常なく2日に操業を再開したが、富山県の高岡市に位置するゼオノースは5日に再開、ゼオンメディカルの高岡工場は9日の操業開始予定だ。他方、合成ゴムや電子材料を手がける高岡工場やCOPフィルムを製造する氷見二上工場(氷見市・高岡市)は5日時点で操業再開のめどが立たず、「早期の再稼働に全力をあげる」(豊嶋哲也社長)。

     日産化学は富山工場のアンモニア設備について、一部設備に損傷を確認したため、2日に稼働を停止し、尿素や硝酸、その他誘導品も計画停止を実施している。アンモニア設備は損傷程度を精査中だが、5日時点で復旧の見通しは立っていない。

     三菱ケミカルグループの富山事業所(富山市)は大きな揺れを受けて4日まで設備を停止して安全確認に努めた。「心配したが大きな被害はなかった」(江口幸治代表執行役)として5日に稼働再開スケジュールを組み、安全確認がとれた設備から順次稼働を開始している。東洋紡の富山事業所は庄川、井波の工場が建屋や設備に一部損傷を受け、前者は7日まで操業を停止し、9日以降の再開に向け、状況確認と復旧作業を急いでいる。

     新潟県でも長岡市の震度は最大6弱で、新潟市内では路面の液状化や道路の陥没被害が多発した。シリコーンやカ性ソーダ、フォトレジストなどを製造する信越化学工業の直江津工場(上越市)は1日の揺れで自動停止。2日以降は安全を確認した設備から順次操業を再開し、物流面の影響を含めて出荷に大きな影響は出ていない。

     デンカの青海工場(糸魚川市)は地震発生後に確認作業を行い、「大きなトラブルは発生していない」(同社)として3日から順次稼働を再開した。ワクチンや検査試薬を手がける五泉事業所(五泉市)は年末年始は稼働停止を計画しており、検査試薬の生産設備は4日から稼働を再開。クリーンルームの稼働については確認中だが、「ワクチン需要の端境期にあるためサプライチェーンへの影響はない」という。

     能登半島地震は北陸に工場の多い医薬品産業にも影響を及ぼしている。5日夕時点で参天製薬やアステラス製薬、富士フイルム富山化学などが工場を停止中。一方で震度7と大きく揺れ、現地への道路が寸断されている石川県珠洲市、輪島市といった地域には医薬品を配送できない状況にあり、卸企業が供給網の確保を急いでいる。

     日本化学工業協会の福田信夫会長(三菱ケミカル取締役相談役)は「工場における人的被害が軽微だったことは何よりだが、経済活動が本格化する連休明け以降は、設備の立ち上げとともに、サプライチェーンへの影響にも目を配らなければならない」と警鐘を鳴らす。
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