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  • 国内化学・素材企業、今期7割が最終増益
  • 2024年6月5日
     国内化学・素材企業の2023年度の最終利益は前年度比8・8%増の2兆5441億円となった。中国景気の停滞や半導体の在庫調整といった逆風の中で自動車向けが回復し、値上げの浸透や為替の円安進行も利益成長を支えた。24年度は信越化学工業など4社が予想を公表していないことから単純比較はできないが、約7割の企業が最終増益を見込んでおり、増益基調が続く。足元では半導体素材や医薬品の開発・製造受託(CDMO)の増強が活発で、今年度の設備投資額は4兆3372億円と23・1%増える見通し。

     売上高1000億円以上の上場企業70社を対象に直近の業績を集計した。24年度業績予想については、公表していない信越化学、JSR、SUMCO、小林製薬の4社を除いて66社で集計した。営業利益を開示していない一部の企業については事業利益や税引き前利益などを用いた。

     70社合計の23年度売上高は48兆7147億円と前年度に比べて3・5%増加した。増収が38社、減収が32社だった。1ケタ台の増減率に収まる企業が多いなか、塗料大手2社が揃って2ケタ増収と好調。日本ペイントホールディングスは得意とする中国市場でシェアを拡大し、関西ペイントは日欧米などで自動車向けに販売を伸ばした。

     営業利益は3兆6227億円と14・4%増加し、内訳は増益が32社、減益が38社だった。半導体の低迷を反映し、信越化学、SUMCO、東京応化工業、JSRの減益幅が大きく、レゾナックホールディングス(23年12月期)は営業損失を余儀なくされた。

     最終利益段階では、巨額の損失が目立つ。医薬品や石油化学事業の業績が落ち込んだ住友化学は3118億円、欧州などの顔料事業で損失を計上したDICは398億円のそれぞれ赤字となった。不織布事業で損失が発生したユニチカ、高吸水性樹脂からの撤退を決めた三洋化成も最終赤字に沈んだ。

     <価格戦略が奏功>

     利益を積み上げた企業に共通するのは、価格戦略が奏功したこと。約45%の最終増益だった日本酸素ホールディングスはガスの出荷は減ったものの、為替差益に加えてコスト上昇分の価格転嫁が増益につながった。約37%増益だったダイセルもたばこフィルター用アセテートトゥなどの増販や値上げで稼いだ。トクヤマはセメントの国内価格修正などが寄与し約90%の増益を計上した。

     電気自動車(EV)など自動車の好調も化学・素材分野に寄与した。約12%増益だった積水化学工業は自動車ガラス中間膜の販売が増え、大日精化工業は北米で車シート向けのウレタン樹脂などが堅調で82%増益となった。

     24年度予想を集計した66社のうち7割近くの55社が営業増益、44社が最終増益を見込んでいる。半導体市場の回復を想定し、日産化学や東京応化は増益に転じ、ADEKAや住友ベークライトは前期の好調が継続する見込みだ。

     コロナ禍を経て事業構造改革などが進む化粧品や生活用品などの分野も明るい兆しがみえる。資生堂、ライオンは最終増益に回復し、花王は6期ぶりの最終増益を見込む。

     <農業分野が苦戦>

     一方、苦戦を見込むのは農薬分野だ。欧米市場でジェネリック品との競合が激しいほか、積み上がった在庫が適正水準となるまで時間を要するとの見方があり、石原産業、日本曹達、クミアイ化学工業(24年10月期)は減益を予想している。

     24年度の設備投資額は前年度と比較が可能な54社を集計した。このうち44社が増額を計画し、35社が2ケタ以上の増加率を見込む。今年度は業績の回復を見越し、慎重姿勢だった設備投資が一気に活発化する。

     最も額が大きいのは富士フイルムホールディングスで、同約20%増の5100億円を投じる。バイオ医薬品のCDMOや半導体関連などの強化に振り向ける。信越化学は三益半導体の完全子会社化(680億円)を含めて約4400億円の投資額を予定する。カナダでの電池絶縁膜の新工場投資を決めた旭化成は3050億円と前年度に比べて66%増やす計画だ。
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