• 2025年10月27日

     まだ食べられるにもかかわらず廃棄される「食品ロス」―農林水産省と環境省が公表した2023年度の推計によれば、その量は年間約464万トン。内訳は事業系が233万トン、家庭系が231万トンとほぼ半々の割合である。発生量自体は12年度から減少傾向が続いている。22年度には、30年度目標である00年度比半減の489万トンを下回った。それを受け、両省の合同審議会は今年3月、30年度までに00年度比60%削減という新たな目標を定めた。

     消費者庁がまとめた23年度の食品ロスによる経済損失は合計4兆円。製造・輸送・販売などの過程で排出された温室効果ガスは、CO2換算で約1050万トンに上る。減少基調にあるとはいえ、経済・環境への影響を考慮すると楽観視できるものではない。

     食品ロス削減には3分の1ルールのような商習慣の見直しや消費者の意識改革もさることながら、賞味期限(おいしく食べられる期間)と消費期限(安全に食べられる期間)そのものの延長が欠かせない。また、加工時に廃棄される残渣や食べ残しのリサイクル・アップサイクルも食材を無駄なく利用する手段として有効だ。化学産業はこうしたアプローチを通じて、食品ロス削減に貢献している。



    物理的・化学的バリアで守る

     食品の賞味期限・消費期限の延長に大きな役割を果たしているのが、プラスチックフィルム・シートといった包装材料だ。包装材料は輸送時に中身の製品を崩れや割れ、傷から守るほか、高いバリア性能で水蒸気や酸素を遮断し品質低下を防ぐ役割がある。近年は電子レンジによる加熱調理に対応した製品も出ている。

     富士キメラ総研によると、23年の国内プラスチックフィルム・シート市場のうち食品・飲料向け容器・包装は51・2%で過半を占めている。今後は包装・容器の薄肉化、フードロス対策で数量ベースでは微減傾向になると予測する。

     食品包装用フィルムの構成は、外側に機械的強度やバリア性が高いベース層、内側に密封性のあるシーラント層を配し、その間に各種機能を補完する中間層を設ける。素材としては、汎用樹脂のポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)のほか、ポリアミドやエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)といった機能性樹脂も使用される。素材にはそれぞれ長所・短所があるため、数種類を組み合わせて機能を高める多層化が一般的となっている。

     しかし、こうした多層フィルムは使用後にリサイクルする際、単一素材だけを取り出すことが難しい。そこで最近ではリサイクル性を考慮して、モノマテリアル化のニーズが高まっている。TOPPANでは、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)の透明蒸着フィルム「GL-LP」開発を皮切りにPET、PEでもバリア性フィルムを揃えた。大日本印刷もPEとPP素材のモノマテリアルパッケージを開発している。モノマテリアル包装材料は多層品と比べてバリア性、生産性が低い、印刷の見栄えが悪いなど課題も多い。コンバーターや素材メーカーは新素材や特殊構造開発で弱点克服を図っている。



    弱点補い微生物の増殖抑える

     保存料・日持向上剤も食品ロス削減対策の一つとして注目されている。保存料は日持向上剤に比べて微生物抑制効果が強く、少量で効果を発揮する。ただし、使用量には制限がある。代表的な保存料としてはソルビン酸、安息香酸、ε-ポリリジン、シラコたん白抽出物(プロタミン)などがある。

     日持向上剤は保存料より効果が低いものの、保存料を敬遠する傾向から使用量が増加している。代表的な日持向上剤は酢酸ナトリウムなどの有機酸、グリシン、リゾチーム、チアミンラウリル硫酸塩など。保存料も日持向上剤もそれぞれ最適に作用するpHや細菌の種類が異なるため、弱点を補うように組み合わせて使うと効果的とされる。



    酸素や湿気取り除き品質保持

     食品とともに包装のなかに入れる品質保持剤も有効な手段だ。脱酸素剤、エタノール蒸散剤、ワサビ・カラシ抽出物蒸散剤、乾燥剤などがあり、最も広く使用されているのが脱酸素剤だ。脱酸素剤は内容物の酸化反応を利用して、包装内の酸素を取り除く。鉄粉を利用したもののほか、アスコルビン酸、グリセリンなどの有機物を封入したものもある。

     エタノール蒸散剤は、包装内にエタノールを発散させカビの発生を抑制する。エタノール吸着体としては粉末状のシリカゲルが一般的に使用される。パンなどの柔らかさとしっとり感を保持する効果もある。脱酸素剤とのハイブリッド型は、より強い制菌効果があり、カビや酵母が生育しやすい水分活性値が高い食品に利用される。



    廃棄物も余すことなく再利用

     保存期間延長とは別のアプローチとして、リサイクルやアップサイクルがある。00年に制定された食品リサイクル法は食品廃棄物の抑制、減量化を目的としており、肥料化や熱回収を含む資源循環を促進している。同法は食品関連事業者に対し、廃棄物削減と再生利用の報告を義務付け、罰則を設けることで事業系食品ロスの減少に寄与してきた。

     食品リサイクル法見直しの際に先送りとなったが、食品廃棄物の「メタン化」は再資源化手法として有望だ。メタン化とは微生物の働きで有機物をメタン発酵させバイオガスを取り出す。脂質系の食品廃棄物はガス発生量が多く、メタン化に向いているとされる。

     廃食用油の再利用も進んでいる。今年3月にはサファイアスカイエナジーがコスモ石油堺製油所(堺市西区)で、国内初となる持続可能な航空燃料(SAF)量産設備を竣工した。同社は日揮ホールディングス、コスモ石油、レボインターナショナルの合同会社で、廃食用油を原料に年3万キロリットルのSAF供給を目指す。廃食用油の回収拠点も拡大している。

     アップサイクルは廃棄物の再利用という点でリサイクルと似ているが、機能、デザイン、品質など再生前よりも高い付加価値を与えることを目的としている。食品廃棄物のアップサイクルは参入企業が多く、競争は激化するとみられるなか、今後はSDGsの視点に加え、エビデンスや一手間加えた高機能化などの「プラスα」も求められそうだ。一丸ファルコスはサケやコメの副産物を原料にサプリメントや化粧品原料として展開。キユーピーは卵殻から土壌改良材や化粧品原料の工業化に取り組んでいる。

     食品中の微生物の増殖を抑制するために、複数の要素を組み合わせる「ハードル理論」という考え方がある。冷凍・乾燥、無酸素、pH、水分活性などがハードルとなって、相乗的な保存効果を得ることができる。包装資材も食品添加物もそれぞれ高い性能を持つが、組み合わせることでより強力な効果を発揮する。

     スーパーの食品売り場に目を転じれば、ラップに包まれた肉や魚、レトルトのソース、スナック菓子、成分表示には保存料や日持安定剤、袋の中には脱酸素剤…化学素材がいたるところに活用されている。毎年10月30日は「食品ロス削減の日」。食品を守り活かす素材の技術に思いを馳せてみては。
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