• 2026年1月1日
    • 代表的な構造体である「MOF-5」
      代表的な構造体である「MOF-5」
     2025年のノーベル化学賞は、「金属有機構造体(MOF)の開発」により京都大学の北川進特別教授ら3氏が受賞した。MOFは多孔性配位高分子(PCP)とも呼ばれ、金属イオンと有機分子でできたジャングルジムのような構造をしている。数ナノメートルの孔が無数に開いた物質であり、その表面積は1グラム当たりサッカー場1面に匹敵するものもあるという。金属イオンと有機分子の種類を変えることで自在に設計でき、10万種類以上が生成されている。特定のガスや低分子化合物を選択的に吸着させることで、貯蔵・分離・合成・触媒・イオン電導・電気伝導・ドラッグデリバリーなどさまざまな機能を付加できることから、幅広い産業への貢献が期待されている。



    多孔性に着目、設計も自在

     金属イオンと有機分子の連続的構造を持つ錯体である配位高分子の存在は、かねてより知られていたが、1990年代に多孔性材料としての機能を見出されたことから一躍脚光を浴びるようになる。豪メルボルン大学のリチャード・ロブソン教授は89年に金属イオンと有機分子から、細孔を持ったダイヤモンド状の構造体を合成。京都大学の北川氏は、97年にPCPが気体分子を吸蔵できることを実証した。米カリフォルニア大学バークレー校のオマー・ヤギー教授は、三次元構造体の新たな設計概念を提唱し、この構造体を「MOF」と名付けた。以降、MOFの実用化に向けた研究が活発化している。



    貯める-気体の貯蔵に期待

     高い表面積を持つMOFは、ガスの貯蔵用途が有望視される。表面の吸着現象を利用することで、通常のガスボンベに比べ低温・低圧力・小面積で保管することができる。引火性や毒性を持つガスでも安全に貯蔵できるため、水素やメタンといった燃料ガスの輸送に適している。

     米NuMatテクノロジーズが2016年に開発した「ION-X」はMOFを充填したガスボンベで、低圧保存で有毒ガスを安全に運搬することができる。同社は韓国の半導体工場へのガス配送サービスを展開している。京都大学発のスタートアップAtomisも小型軽量ガスタンク「Cubitan」の普及拡大を図る。23年に八千代エンジニヤリング、インドネシア国立研究革新庁と提携し、翌24年からインドネシアでCubitanを活用したスマートガスネットワークの実証を進めている。



    分ける-CO2を選択捕捉

     数種類の分子が混ざった物質から、特定の分子だけをMOFに吸着させることで分離することができる。工場廃ガスからの二酸化炭素(CO2)分離回収は、気候変動対策として注目の用途だ。昭和電工(現・レゾナック・ホールディングス、グループ傘下のクラサスケミカルに事業移管)、日本製鉄などが進めるPCPを活用した低濃度CO2分離システムの開発が、22年にNEDOのグリーンイノベーション基金事業に採択された。同事業の技術的な優位性は構造柔軟型PCPにある。他のCO2分離材は低濃度CO2の脱着に大きなエネルギーを要するが、構造柔軟型PCPは圧力変化に応じて伸縮し、CO2の吸放出をアシストする。省エネルギーでの分離・回収ができる。来年度にもパイロット設備を設計し、29年度の稼働を目指している。



    変える-有害物質を有益に

     MOFは触媒としての利用が検討されている。骨格のなかに反応性の高い金属イオンを組み込むと吸着した分子に触媒として働き、化学反応を促進する。細孔サイズより小さな分子の選択的な反応、活性点の集積による相乗効果、不斉選択性といった特徴がある。GSアライアンスは、量子ドットとMOFを複合化した独自の触媒を塗布した人工光合成シートを開発。CO2からギ酸の合成に成功している。また、CO2をメタノールに変換する触媒をMOFに組み込む試みもある。変換効率などに課題があり研究開発段階にあるが、脱炭素化技術として期待されている。



    放つ-果物もカラダも守る

     MOFに特定の物質を担持し機能を発現させる応用展開も進んでいる。英MOFテクノロジーズ(現・Nuada)が16年に実用化した「TruPick」はMOFにエチレンの働きを阻害する1-メチルシクロプロペン(1-MCP)を貯蔵した製品。果物はエチレンが付着することで鮮度が低下するが、TruPickを同封すると、果物の水分でMOFが壊れ1-MCPがエチレンと反応し腐敗を抑制する。

     MOFは薬物の運搬体(DDS)としても注目されている。DDSにはナノ粒子やリポソームが利用されるが、薬物の封入率や安定性に課題があった。低分子医薬品だけでなく、近年タンパク質や核酸のような高分子を取り込むMOFが開発されたことで、生物医薬品としての可能性が開けてきた。



    一致団結して実用化前進へ

     無限の可能性を秘めるMOFだが、実用化は道半ばである。MOFの合成は金属イオンと有機分子の溶液を常温常圧で混合する溶液法が一般的だが、溶媒が高価なため1キログラム当たり10万円前後となっている。Atomisでは原料を機械的に混合する固相合成法で、数千円で量産する手法を開発している。同社は大企業との連携を通じてMOFの普及を目指す。

     北川氏は、次世代のMOFとして他素材とのハイブリッド化を掲げる。これにより「例えば細胞膜のように、一方にだけ物質を通す異方性など、従来の合成物質では実現できなかった性質を持つ材料の開発を目指している」という。また、「日本と世界で研究体制には資金面を含め大きな格差がある。それを埋めるために学界だけでなく産業界も含めて一致団結して制度作りを進めてほしい」と述べる。海外では欧米を中心に研究開発が行われており、高い成長率で市場拡大が続く。日本発の素材でもあるMOF、産学協力して一歩ずつ実用化を前に進めて欲しい。
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