• 環境課題 連載
  • アンモニア、CNが招くパラダイムシフト 各地に輸入ターミナル構想
  • 2022年12月12日
    • 周南市では30年に向けた100万トンのアンモニア基地化構想が立ち上がった(出光の徳山事業所)
      周南市では30年に向けた100万トンのアンモニア基地化構想が立ち上がった(出光の徳山事業所)
     <2050持続可能な未来へ アンモニア/1(その1)>

     2050年のカーボンニュートラル(CN)を目指す世界の潮流がアンモニア市場にパラダイムシフトを引き起こそうとしている。燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さず、水素と比べ輸送や貯蔵が容易なことから、石炭火力など電源を脱炭素化する新燃料などとして注目され、従来とまったく異なるサプライチェーン(SC)が築かれようとしている。国内でもコンビナート単位の導入やナフサクラッカーの熱源利用といった技術開発に向けた取り組みが緒に就いた。一方、UBEが30年の生産撤退を検討するなど化石由来の“グレー”品への風当たりは強まるばかり。化学業界におけるアンモニアの現状を追う。【2面に関連記事】

     水素と窒素で作るアンモニアの19年の世界需要は約2億トン。その8割が肥料、残りはカプロラクタム(CPL)やアクリロニトリル(AN)など石化製品の原料などとして用いられ、この先も人口増を背景に年率1%強の成長が予想される。同年の日本のアンモニア消費量は約108万トンで、その8割は昭和電工、日産化学、三井化学、UBEの国内メーカー4社が供給し、残りはインドネシアやマレーシアなどから輸入されてきた。

     アンモニアの需給バランスに地殻変動を起こしているのがCNだ。とくに、化石資源を原料とするアンモニアのうち製造過程で生じるCO2を回収・利用するなどした「ブルー」や再エネ由来水素で作る「グリーン」アンモニアは石炭火力発電燃料の混焼や水素キャリアとして期待され、国際エネルギー機関(IEA)は1トン当たりの価格が350ドルを下回れば50年に5億5000万トンの需要が生まれると予想。IHSマークイットは45年近傍にクリーン品の供給量がグレー品を上回るとし、経済産業省は世界市場が30年に7500億円、50年に7兆3000億円に伸長するとそろばんをはじく。

    • 2045年にはクリーンアンモニアがグレーを逆転
      2045年にはクリーンアンモニアがグレーを逆転
     クリーンアンモニアをCN達成の起爆剤とすべく輸入基地化に向けた具体的な取り組みも立ち上がる。先行するのが周南市(山口県)。今年1月に設立された「周南コンビナート脱炭素推進協議会」の設立に端を発し、出光興産の大浦地区の液化石油ガス(LPG)タンクを改造して海外から輸入品を受け入れ、遊休の海底原油配管にパイプラインを通すことで近隣のトクヤマと日本ゼオンに供給。距離の離れた東ソーには内航船で運ぶ構想だ。30年までに100万トン超の受け入れ体制構築を目指し、各社はナフサ分解炉や石炭ボイラーで利用する。

     コンソーシアムを組む東ソーも、現行設備やインフラを活用できるアンモニアに期待する1社だ。同社は南陽事業所の石炭火力発電に400億円を投じ、26年にもボイラー1基を流動層のバイオマス専焼炉に切り替える計画。ただ、すべての設備を更新するのは多額の投資がともなうため難しい。残り5基の微粉炭ボイラーは30年までにバイオマス混焼比率を3割近くまで引き上げ、30年以降はアンモニアの投入による石炭比率低減のシナリオを描く。今後、バイオマスの争奪戦が予想されるなか、燃料BCP(事業継続計画)の面からも有効な手段と認識し、「受け入れタンク建設の検討も始めている」(桒田守社長)。

     新居浜市(愛媛県)でクリーンアンモニアの受け入れを計画するのが住友化学だ。CNへの移行期では新居浜LNG基地を立ち上げるなど施策を進めているが、「中長期的にはクリーン燃料としてアンモニアや水素が有望な選択肢」(高渡正行エッセンシャルケミカルズ業務室部長)となる。昨年末にはノルウェーのヤラ・インターナショナルと、同社が生産するクリーンアンモニアの原料利用や工場熱源としての活用検討を開始した。

    • 住友化学は国内最大規模のタンクを活用してターミナル建設に貢献する
      住友化学は国内最大規模のタンクを活用してターミナル建設に貢献する
     住友化学は原料はグリーン、燃料はブルーとアンモニアを用途で使い分ける考え。CO2を地中に埋めるCCSの市場評価が定まらないなか、工業製品などへ転換するアンモニアはグリーンを用いることでカーボンフットプリント(CFP)の削減を見込む。他方、大規模輸送が不可欠な燃料用は先行して普及が進むブルーを用いる方針だ。

     新居浜港は国のCNポート構想に選定され、市も水素やアンモニアの受け入れを計画する。愛媛に国内最大級の1万5000トンの貯蔵タンク2基を有し、年10万トン超の取り扱い量を誇る同社もその知見を生かし、「瀬戸内海のハブ機能を果たしたい」(竹下憲昭専務執行役員)。グループの住友共同電力の燃料としての利用や、近隣への供給も視野に入る。
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