•  <2050持続可能な未来へ アンモニア/3(その3)>

    【1面から続く】クリーンアンモニアの大規模サプライチェーン(SC)の構築に挑む総合商社。大手2社のキーマンに戦略を聞いた。(聞き手=加納修、但田洋平)

     <ベースロード北米主軸に 三菱商事・村尾亮一石油・化学ソリューショングループ次世代発電燃料事業部燃料アンモニア・水素導入室長>

    ■…燃料アンモニアの重要性が高まっています。

     「クリーン化だけを目指すなら必要なエネルギーを全て再エネで賄うのが理想だが、カーボンニュートラル(CN)への移行期のなか、再エネの間欠性補完、電化が困難なセクターのエネルギー源などとして重要な役割を担う天然ガスの安定供給を継続しつつ、一方で国民負担を考え、まずはバイオ燃料やクリーンアンモニアなど無理のない形での新燃料の導入を模索していく。我々は液化天然ガス(LNG)においてSCを構築し、安定供給に努めてきた。燃料アンモニアでもサプライヤーとして重要な役割を果たしていける」

    ■…米テキサス州では最大年1000万トンに及ぶ大規模製造を検討します。

     「地政学リスクも考えると新燃料のベースロードの一定ボリュームを北米が占めることになろう。20年代末から35年前後までに世界で複数の計画が立ち上がり、日本でも発電燃料需要を中心に、最初は50万トン、その後は毎年100万トン、150万トンと増えていくとみている。われわれも複数案件を同時平行で進め、適切なタイミングでの投資決定(FID)を目指す」

    ■…SC構築と並び燃料アンモニア導入の制度設計でも貢献してきました。

     「2014~18年度に実施された内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)でエネルギーを貯蔵・輸送するキャリアとして、アンモニアが直接利用も出来得る点において最も有効であるとの方向性が示された。既存インフラを活用しながら低炭素に向かう現実解としてアンモニアを活用しようとの流れが生まれ、三菱商事も既存のアンモニア事業やエネルギー事業の知見に期待され、SIP、さらには現在のクリーン燃料アンモニア協会(CFAA)などの活動にも参加してきた。燃料アンモニアの社会実装には安定調達とコスト低減が欠かせず、国の支援策と官民一体となった取り組みを進めることが重要。CFAAでは弊社も理事に名を連ね、戦略委員会の委員長として導入の議論をまとめ政府に提供した。認証WGの委員長としてクリーンアンモニアの基準作りにも努めている」

     <燃料に先駆け市場を形成 三井物産・二宮大介ベーシックマテリアルズ本部クリーンアンモニア事業開発室長>

    ■…クリーンアンモニアへの注目が高まっています。

     「石炭火力向けの需要が先行して立ち上がるだろう。20%程度の混焼にとどまらず、将来を見据えた専焼の技術開発も進んでいる。既存の化学・肥料・産業用途でも、欧州を中心に原料の低炭素化へのニーズが見込まれ、ナフサクラッカーや各社工業炉での活用に向けた技術開発も始まっている。他方、舶用燃料は50年に1億トンを超える規模のポテンシャルがある領域だ。また、欧州が30年に1000万トンの水素輸入を計画するなか、水素キャリアとしても関心が集まっている」

    ■…三井物産のクリーンアンモニアSC構築の考え方について。

     「当面ブルーが競争優位性を維持するとみており、我々もオイルガスのE&P(探鉱・開発・生産)やCCSの事業知見、LNG事業を通じた産油ガス国や石油メジャーとの強固な関係も生かして製造事業に参画する。輸送においても、既存のアンモニアプレイヤーとしての販売力・トレードフローや、外航船、国内内航船オペレーションの知見を活用していきたい。実際、アブダビではADNOCとLNGで50年以上の協業を続けてきたことと既存トレーディングの実績が新規製造事業での連携につながっている」

    ■…クリーンアンモニアの供給では燃料向けに先駆けて既存用途向けに販売する計画です。

     「アブダビでは25年、米国でも27年から製造を開始する予定だ。われわれも燃料向けを最終的なターゲットに据えているが、プロジェクトは必ずしも需要と同時並行で立ち上がらないケースもある。先に競争力ある上流開発やロジスティクスを整備することで、本邦への安定供給に貢献するることもできるだろう」

    ■…制度設計の面で政策支援も必要となります。

     「先行してSC構築に取り組むファーストムーバーへの支援をお願いしたい。また、議論が進む値差補填についても、サプライヤー支援を通じた需要家へのサポートであり大変重要な施策であると認識しており、サプライヤー・需要家双方にとって予見可能性が高く、事業立ち上げリスクや調達コスト負担軽減に資する内容としてもらいたい」
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