• 半導体材料などの成長事業に集中投資するうえで全社最適の発想が不可欠になる(写真は半導体パッケージ基板用銅張積層板)
      半導体材料などの成長事業に集中投資するうえで全社最適の発想が不可欠になる(写真は半導体パッケージ基板用銅張積層板)
     <レゾナック始動/下>

     石油化学、黒鉛電極、ハードディスクなどの安定収益源から得たキャッシュを半導体材料、自動車材料などの成長事業に集中投資し、収益拡大を目指す。レゾナック(昭和電工と昭和電工マテリアルズの統合事業会社)の戦略はシンプルだが、それを遂行するには個別最適から全社最適への発想転換が必要となる。全社のマインドセットを変えることが、多様な事業を束ねるポートフォリオ経営の推進力を高めることにつながる。

     「独立国家の集合体ではなく、合衆国にしなくてはポートフォリオ経営は成り立たない」と、髙橋秀仁社長は話す。これまでの旧昭和電工では事業部の自主性を重んじる経営手法が取られてきたが、髙橋社長を中心とする経営チームは全社最適のグリップを効かせるための仕組みを整えてきた。

     <役割を明確化、財務などが支援>

     その一つが、財務経理、人事部門に導入した「ビジネスパートナー(BP)制」だ。レゾナックでは半導体材料や自動車材料を「コア成長事業」、石油化学や黒鉛電極などを「安定収益事業」といったかたちで分類し、各事業の役割や目標を明確にした。事業部や事業所の伴走者となり、戦略の実行を財務経理、人事面からサポートするのがBPの役割だ。

     「経理財務のメンバーには、もっと事業に入り込んで、その事業が良い方向に進んでいくように働きかける『ベストナビゲーター』が役割と伝えている」と、染宮秀樹最高財務責任者(CFO)は語る。レゾナック発足に合わせて、全社の経理財務部門をCFOの傘下組織として「横串機能」を強化した。所属する約250人のメンバーに事業部、事業所のCFOの役割を担ってもらい、ポートフォリオ経営の潤滑油にする狙いだ。

     <ROICを導入 貢献度の目安に>

     22年には事業に投じた資金でどれだけ稼いだかを示す投下資本利益率(ROIC)を経営指標として導入した。ROICは売上高営業利益率と投下資本回転率という指標に分解できる。事業全体のROICを高めるうえで各現場のどのような活動が、どの指標への貢献につながるかを紐付けて見える化し、モニタリングする取り組みを一部で始めており、これを全社に順次広げていく。コア成長事業だが苦戦が続く自動車材料ではCFO組織からも人を送り込んで事業再構築の計画策定を急ピッチで進めている。

     予算会議のあり方も変わった。以前は各事業部と本社が相対でやりとりする慣例だったが、22年12月期の予算編成からは全ての事業部の予算会議に全事業部長が出席するかたちに改めた。染宮CFOは「安定収益事業のメンバーには、自らが稼いだキャッシュを使ってコア成長事業がしっかりとリターンを生み出せているか意見する権利がある」とし、「全社最適を考えたうえで自らの事業を考える文化が根付きつつある」と話す。

     「事業部側が作成する事業計画には、全社最適や財務規律の考え方がだいぶ浸透してきた」と、真岡朋光最高戦略責任者(CSO)も口を揃える。そのうえで、事業側の描く戦略のストーリーが腹落ちするものか、経営側との間でとことん議論することが日常の風景となったという。

     真岡CSOは「中長期的に成長し続ける半導体材料を中心とする機能性化学メーカーとしてのレゾナックというイメージに変え、株主を引きつけたい」と話す。染宮CFOも「変革するレゾナックにベットしたいと、ロングオンリー(買い持ち専門)の投資家にも少しずつ入ってもらえるようになった」と手応えを語る。

     メリハリの効いた経営資源の配分、財務規律の徹底はポートフォリオカンパニーが企業価値を高める必須項目でもある。そうしたトラックレコード(経営実績)を積み重ねることが企業価値を高める王道であり、近道でもある。(小林徹也)
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