• 経営 連載
  • 東ソー・四日市事業所、進化し続ける石化基地
  • 2023年10月30日
    • 中京地区で唯一のナフサクラッカーを保有。エチレンをはじめ石化セクターが集積している
      中京地区で唯一のナフサクラッカーを保有。エチレンをはじめ石化セクターが集積している
     <工場ルポ 東ソー・四日市事業所/上>

     東ソーで第二の規模を持つ製造拠点である四日市事業所(三重県四日市市)。石化事業における中核拠点であると同時に、今後は同社の収益力拡大を担うスペシャリティ領域の製造拠点としての進化も求められ、さらには、カーボンニュートラル化を地元自治体や周辺企業とも連携して実現するなかで中心的な役割を求められる。こうした課題や将来展望の実現を目指す、四日市事業所の強み、研究開発や脱炭素対応の動向を追う。

     <ナフサから塩ビまで>

     3つの石化コンビナートからなる四日市コンビナートのうち、東ソー四日市事業所は「霞コンビナート」と呼ばれる第3コンビナートに位置する。1970年に操業。同コンビナート内最大の敷地となる114万平方メートル内に861人が働いている。

     同事業所で稼働するナフサクラッカーは中京地区で唯一のもの。エチレン(年50万トン)を始めとするオレフィン、水素、C4以降の各留分、ポリエチレン(PE)など同社の石化セクターが集まる拠点であり、周辺各社への原料供給の役割も担う。ナフサクラッカーと、クロール・アルカリ事業を併せ持つことが南陽事業所(山口県周南市)と大きく異なる。

     ナフサクラッカーからPE(合計年23万トン)と電解設備から塩化ビニル樹脂(年31万トン)などの誘導品まで一貫生産する「クロロ・ペトロケミカル体制」は四日市事業所の特徴で、3万キロリットルを貯蔵可能な2基の大型ナフサタンク、そして、オーストラリアなどから購入した工業塩がうず高く積まれる塩山は、象徴する景色といえる。

     <汎用とハイブリッド>

     今後の方針として、機能商品の生産を増やし、コモディティとスペシャリティのハイブリッド拠点としての進化を目指す。ハイシリカゼオライト、ジルコニア粉末に次ぎ、南陽事業所で製造している分離精製剤なども新たな製品群に加えたい考えで、30万平方メートルの将来用地が同領域の設備投資に生かされていく。

     研究開発ではポリマー関連研究所の集約と同時に、顧客との共創や共同開発体制を強化するため「カスタマーラボ棟」を新設した。高付加価値製品比率の向上を目指すPEについては9種9層まで加工できる水冷インフレーション装置を設置し、医療用容器や半導体の製造に用いる高純度薬液用容器向けのクリーンなポリエチレンを評価する体制を整えた。

     ポリウレタンの研究開発も、主力の塩素誘導品としてイソシアネートを手がける同社にとっては、重点的に取り組む領域だ。ラボ棟内に設置した発泡・注型機では、要求性能を実現するサンプル作成や性能検証が可能で、顧客の活用頻度も高まっているという。

     コモディティ分野において、C4系の未利用留分からベンゼンを中心とする芳香族成分を製造する技術開発は、ナフサクラッカー強化に繋がる重要課題となる。

    • 顧客との共創や共同開発体制を強化するため「カスタマーラボ棟」を新設した
      顧客との共創や共同開発体制を強化するため「カスタマーラボ棟」を新設した
     <環境対応の伝統継ぐ>

     霞コンビナートは住宅地から緩衝緑地帯(霞ヶ浦公園)と運河を隔てた出島形式の人工島だ。大気汚染による公害問題を踏まえ、当時の最新技術を駆使した環境配慮型コンビナートとしてスタートした。操業の最初期から環境対応の責任を果たしてきた同事業所の環境面の取り組みは、絶え間なく続く。

     19年に完工、稼働した最新鋭のナフサ分解炉(1基)は国内でここだけの設備。エチレンの得率は従来比5%向上した。また、この設備によって削減できた燃料は、同時期に設置したガスタービン発電へ回り、自家発電力コスト削減につながっている。

     次の課題は、50年のカーボンニュートラル実現に向けた脱炭素対応による環境負荷低減となる。まずは、30年度のGHG排出量を18年度比で30%削減する課題に挑んでおり、ガスタービンの追加設置などを検討している。
いいね

  • ランキング(経営)