• 下半期に需要が回復するとみられる
      下半期に需要が回復するとみられる
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     塩化ビニル樹脂のアジア需給を支えてきたインドの需要が変調し、これまでのおう盛な買い付け意欲が停滞している。日本国内メーカーの輸出販売数量への影響は限定的とみられるが、不動産不況下にある中国からの大量の余剰品が重い足かせとなり、原料エチレン市況が上昇していることも拍車をかけて塩ビ事業の収益性にとっては、大きな逆風となりかねない。市場関係者は、インドの需要は2024年通年では前年比で高い需要成長率を維持するとみており、上半期を中心とした事業環境の悪化となりそう。

     昨年のインドはアジア域内でほぼ唯一、需要がおう盛な国だったといえる。市場関係者によると、23年の中国製品の総輸出量は2年続けて過去最高となる240万トン(前年比16%増)。コロナ禍以前は年間でも100万トン前後だったが、昨年はインド一国向けだけで100万トン余りを輸出した。日本の輸出も同様。内需が90万トンを割り込む最低水準になった調整弁として、財務省貿易統計の23年塩ビ輸出実績は約65万トン(同12%増)、インド向けは前年比41%も増えて約48万トンだった。

     対して、インドが23年に輸入した塩ビは22年比70%近く増え過去最高の320万トンに上る。灌漑用硬質塩ビパイプをはじめとする農業インフラ資材関連の需要が過熱したことが一因とされ、不動産不況や在庫調整で需要が低迷する日中をはじめとするアジア域内の余剰品を吸収した。

     足下のインド需要について、市場関係者は「モンスーン前の繁忙期にしては弱い」(商社)と勢いが衰えた現状を指摘する。アジア市況の目安となる台湾FPCが3月に1トン当たり820ドル(2月比30ドル増)で販売した約7万トンのうち、インド向け約2万トンは数千トンほど売れ残ったという。「豊富な在庫がある」「昨年は買いすぎ。通常の購入ペースに戻ったといえる」(メーカー、商社)といった要因が語られるが、いずれにせよ、域内唯一の強い需要が失われ、収益面への悪影響が懸念される。

     中国で余ったカーバイド法製品を1トン当たり750~760ドル程度で購入できる現状に対し、FPCの820ドルは割高感があるが、エチレン市況が1月初めから足下にかけて9%上昇し、収益を確保するため値上げせざるを得なかったのが実情。インド勢の買い付け意欲が後退し、だぶつく中国品のみが意識されるようになれば、ただでさえ低位安定するアジア市況の低下を招く。実際、「在庫に余裕があるので、購入するのは安価な中国品があるとき」(商社)という姿勢の需要家も多く、その兆しがある。エチレン市況の上昇が今後も続けば、収益性をさらに損なうことになる。

     商社を中心とする市場関係者は、今年のインド内需が初の500万トン超(前年比10%増)になると予測しており、下半期以降の需要回帰を展望する。このため、塩ビの事業環境悪化は上半期が中心になるとみられ、その後はインドで総選挙が終わる5月以降の需要動向が焦点になる。

     数量面での影響は「韓国、台湾メーカーにとっては大きい」(メーカー)とされるが、大洋塩ビや信越化学工業など輸出を手がける国内大手にとっては限定的とみられる。関税メリットを持つ日本品は元々、価格競争力で優位にあるほか、3~5月にかけて行う定修で生産数量が減るためだ。
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