• 会見する上田副社長
      会見する上田副社長
     住友化学はデータなどの無形資産を原料と捉えた新ビジネスを収益の柱に育成する。第1弾として今夏、天然素材に隠れた機能性成分を分析・データベース化し、素材の売り手と買い手をマッチングするプラットフォームサービスの運用を開始する。大量に排出される食料廃棄物を機能性表示食品などの生産につなげれば社会課題解決にも貢献できる。まずは数年内に数十億円の売り上げを目指す。バイオ技術に加え、第2弾以降では、マテリアルや設備などに関するノウハウとデジタル技術をかけあわせ、工場のリモート操業支援などのソリューション事業が視野に入る。

     12日に開催したDX戦略説明会で、上田博副社長が披露した。創業以来の危機的な経営状況下において「デジタルトランスフォーメーション(DX)は抜本的構造改革や事業立て直しの原動力であり、変革と成長のエンジン」との認識。既存事業の競争力強化策として進めてきた「DX2・0」に対し、新たな事業モデルによる価値創造ステージを「DX3・0」と位置づけ、固有のデータやノウハウを活用したソリューション提供や顧客体験価値の向上を次代の収益源に据える。

     デジタルプロダクト第1弾として7月に上市するのが、天然素材のデジタル・ネットワーキング・プラットフォーム「Biondo(ビオンド)」だ。本来の価値に気づかなかった天然素材を見いだし、その素材の売り手と買い手を結びつける。加工したり製品化されなかった果樹や樹木、有効成分に気づかず口にしていた食品などを想定する。

    • 天然素材のデジタル・ネットワーキング・プラットフォーム「ビオンド」
      天然素材のデジタル・ネットワーキング・プラットフォーム「ビオンド」
     ビオンドは、(1)安全性評価などで培ってきたオミックス(網羅的解析)解析技術や解析アルゴリズムを活かした「化学分析技術」(2)分析により蓄積してきた「化合物データ」(3)プラットフォーム上での「マッチングサービス」-で構成。素材を提供したい企業などから預かり、含有する数百の成分を網羅的に分析する。有用成分がどれだけ含まれるか明らかにし、素材提供者に新たな価値に気づく機会を与える。分析した素材の情報と含まれる有用成分、発現する機能をデータ蓄積することで簡潔に検索できる。

     マッチングサービスにより、素材提供者は自身の素材を誰が欲しがっているか分かる。購入者側は、例えば、ある商品に特定の機能を付与したい場合、どんな素材が存在するか、誰が提供しているかなど効率的に検索できる。

     自社内にすでに数百のデータを蓄積しているが、今後は顧客の素材情報を分析・収集することで蓄積量を数年で数倍に拡大していく。そのため、素材を預かり分析するサービスは比較的安価に設定し、データベースの利用やマッチングサービスで稼ぐ。

     住友化学は23年1月、新事業のインキュベーターとなる専任チームを発足した。社内から事業アイデアを募り、事業化の企画からプロダクト開発、ローンチまで携わり、ビオンドは今年1月に限定されたユーザーに対してプロトタイプをリリースするなど、「従来の素材の製品開発とは全く異なるアプローチやスピードで事業化を目指してきた」(上田副社長)。

     専任チームの西野信也リーダーはビオンドについて「売り上げは数年内に数十億円とスモールスタートとなるだろうが、ネットワークや波及効果で指数関数的に拡大していきたい」とし、24年度中に第2弾のテーマにも着手する。
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