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  • タイ特集 石化構造改革待ったなし
  • 2025年7月28日
     タイの化学産業は、先行きが見通せない状況が続いている。安価な中国品の流入による供給過剰と利益の低下は東南アジアで恒常化しつつあり、業界内では市場構造は元に戻らないとの予想も出始めている。こうした事業環境を踏まえ、赤字に苦しむタイ化学大手の間では不採算事業の見直しや資産軽減、原料転換、特殊品へのシフトといった構造改革の動きが加速。これまで汎用化学品に偏重していた収益体質からの脱却を図る過渡期に差し掛かっている。

     <中国増産で市場一変>

     サイアムセメントグループ(SCG)傘下のSCGケミカルズ(SCGC)、国営のPTTグループに属するPTTグローバルケミカル(PTTGC)とIRPC、PET樹脂世界最大手のインドラマ・ベンチャーズの今年第1四半期決算は、軒並み最終赤字となった。中国で汎用化学品を中心に続く生産設備の新増設による大増産の動きが市場環境を一変させ、既存の収益構造では利益の確保が難しくなっている。

     中国企業による生産拡大は今後数年続く見通しで、価格競争力で勝る中国品の浸透は避けられないことが明らかとなり、タイ企業は短期、中長期の視点から相次いで対策を打ち出した。

     <休止、撤退判断相次ぐ>

     構想から10年以上をかけて建設したベトナム南部の石油化学拠点を昨年華々しく開所するはずだったSCGCは、市場を席巻する中国品の影響に出鼻をくじかれる格好となった。生産すればするだけ赤字が拡大する状況で、稼働開始から2週間あまりの昨年10月に生産を停止した。この停止措置は当初想定した6カ月間を超えて7月現在も継続している。原油価格の値下がりを受けて生産品目であるポリオレフィンの利ざやが改善してきたことから、同社では8月末から9月初頭に再稼働させる方向で準備を進めている。

     こうした事態に陥った同拠点の競争力が中長期的な課題となり、同社はその対策として、主原料をこれまで想定していたナフサやプロパンから安価な米産エタンに切り替えることを決断。設備改造から貯蔵タンクや受け入れ設備などまでを整備する大がかりな計画を昨年9月に打ち出した。

     その後、米エンタープライズ・プロダクツ・パートナーズと、年間約100万トンのエタンを15年間購入する長期契約を締結。エタン輸送に関する用船契約は商船三井のグループ会社と結び、液化エタン専用船(VLEC)も5隻建造することになっている。最も大規模な追加設備となる貯蔵タンクの建設は、中国企業とベトナム企業のコンソーシアムに発注。完工は2027年の予定で、早ければ同年末から米産エタンの受け入れを開始する想定だ。この競争力強化計画の投資額は約5億米ドル(約750億円)と見積もっている。

     この計画により、ベトナム拠点の主要製品の一つであるポリエチレンの競争力は現状より高まる見込み。ただその反面、ナフサを原料に多様な誘導品を生産する“複合拠点”として拡大していく当初のシナリオからは遠ざかることとなる。

     PTTグループでは、PTTGCが先行して改革に取り組んでいる。まず進めたのが不採算事業からの撤退。いわゆる“止血”作業だ。昨年11月、旭化成と折半出資し、アクリロニトリルやメチルメタクリレートなどを生産してきた合弁会社PTT旭ケミカルの事業を終了することを発表した。中国の生産能力が増えたことを背景に、ここ数年同社は業績低迷に苦しみ、改善が見通せなかった。現在は設備の撤去工事に入っている。

     さらに現在は、ウレタン原料を手掛けるグループ会社ベンコレックスの切り離し作業を進めている。同社の主力拠点であるフランスのグループ2社は、同国の裁判所から清算手続きの許可が下り、再編プロセスが始まった。タイと米国の拠点は売却する方針で、買い手候補と交渉を続けている。

     PTTGCにとっても石化事業の競争力向上は大きな課題だ。5基保有する分解炉ではこれまで、原料選択に柔軟性を持たせる設備改良への投資を断続的に実施してきた。23年には、エタン専用だった「OLE2/2」分解炉の改良が完了し、原料としてプロパンと液化石油ガス(LPG)の投入が可能となった。

     同社も今後は米産エタンの使用比率を高める方針。PTTGCでは現状、3基の分解炉で合計250万トンのエタンを利用できる。3月に、SCGにも供給が決まっているエンタープライズと15年間の購入契約を結んだことを発表した。年間40万トン規模で、29年からの輸入開始を予定している。一方で、ナフサが利用可能な2基の分解炉を引き続き運営することで、現状の製品ポートフォリオを今後も維持したい考えだ。

     同グループのIRPCは後手に回っている印象。保有する工業用地の販売など資産の収益化、子会社のてこ入れなどを施策として掲げているものの、目立った成果は発表されていない。

    • PTTGCは東レと連携してバイオ分野で事業創出をめざす
      PTTGCは東レと連携してバイオ分野で事業創出をめざす
     <自前原料拠点閉鎖も>

     インドラマ・ベンチャーズはグローバルに生産体制の最適化に取り組んでいる。改革に着手した昨年は、PET樹脂と原料の高純度テレフタル酸(PTA)を生産するオランダ・ロッテルダムの工場をはじめ、カナダのPTA工場、オーストラリアの酸化エチレン工場と相次いで不採算拠点を閉鎖。こうした合理化は今年、1億4000万~1億5000万米ドルの収益改善効果を生み出すと試算している。中国で増産が進んだPTAは、自社生産より割安であれば国際市場から調達する構えだ。

     また、界面活性剤、酸化エチレン付加体(EOA)、リニアアルキルベンゼン(LAB)を生産する事業については昨年、新会社「Indovinya」を設立し集約。より自由度の高い事業運営体制に移行している。

     <日系企業も事業再編>

     中国による化学品大増産の余波を受けるのは、タイ企業に限ったことではない。PTTGCとの合弁事業の終了を選択した旭化成に続き、UBEがタイでの事業縮小を決めた。グループ会社であるUBEケミカルズ・アジアが27年3月までにシクロヘキサノン、カプロラクタム、硫安の現地生産から撤退する。ナイロンポリマーは2系列から1系列に減らす。同グループのUBEファイン・ケミカルズ・アジアでは、シクロヘキサノンから副生する1,6ヘキサンジオールと1,5ペンタンジオールの生産を停止する予定だ。

     汎用化学品に収益の大半を頼るタイ化学大手にとっては、これまでも志向してきた特殊化学品や高付加価値製品へのシフトがますます重要となる。SCGCとデンカは、車載電池や高圧送電線ケーブルなどの素材として使われるアセチレンブラックを事業化する。合弁会社デンカSCGCアドバンスト・マテリアルズの工場が来年完工予定。

     SCGCはまた、ブラジルの化学大手ブラスケムと植物由来のエタノールからバイオエチレンを生産する工場の建設計画を温めている。SCGCはバイオエチレンを引き取ってバイオポリエチレンを生産する構想だが、エタノール利用に関する法規制の問題が解決しておらず、最終投資判断にいたっていない。

     PTTGCはバイオ分野で、グループ会社であるネイチャーワークスのポリ乳酸(PLA)工場の本格稼働を来年に控える。東レとは、非可食バイオマス原料を利用するアジピン酸の量産化を目指している。

     こうしたプロジェクトをスムーズに事業化、収益化できるかどうかが、タイ企業のポートフォリオ改革の成否を左右しそうだ。
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