ジュロン島東北部から臨んだ港湾
中国品の東南アジア市場への流入は日系化学メーカーにとって大きな懸念材料だが、それ以外にも政治・経済上の混乱要因は数多い。その代表例は紆余曲折を経た米トランプ政権による関税政策。「北米向け輸出などに少なからず影響した」との声がある一方、食品包材など域内製造でほぼ完結する市場向けでは混乱が抑えられたもようだ。
足元での直接影響は限定的ながら、東南アジアの域内各国が交渉に「折れた」結果として適用される関税率は新たな懸念材料となり得る。例えばインドネシアは7月、米国からの輸入品の99%以上に対して関税を撤廃すると発表。対する米国側はインドネシア製品への輸入関税率を引き下げたが、「力押し」が顕在化した。
<米国品も新たな懸念に>
同国はポリエチレン(PE)の大規模需要地でもあり、「これから価格競争力の強い米国製PEが流入するのでは」との懸念が各所で聞かれた。中国品の流入で多くの化学品市況が下落するなかで米国品も新たな「市場荒らし」の因子に加われば、シンガポールからの化学品輸出に与える影響も大きい。
さらに「在中国の米系企業」も因子の一つであり、2025年2月には米エクソンモービルの恵州工場(広東省)がエチレン160万トン設備を稼働。ポリオレフィンとしては合計270万トン規模であり、在シンガポールの日系各社は中国市場における競合激化や東南アジアへの流入に警戒を強め、先を見越して対象市場の分散化などに動いた。
<日本勢は市場シフトへ>
さらに一部の機能性オレフィンについても中国勢の新プラント稼働が始まったことを受け、日本勢は「内需低迷のなかで彼らも海外に目を向けざるを得ないのだろう」と観測。シンガポール市場での販売攻勢に対し、すでに先手を打ちつつある。
一方、合成ゴム市場では欧州品の流入という因子もあり、中国品の流入増と合わせて市況下落の要因となっている。世界各地の自動車生産がコロナ禍以後に不透明感を増したことからSBR(スチレン・ブタジエンゴム)・S-SBR(溶液重合スチレン・ブタジエンゴム)など用途側も精彩を欠いており、「原料ブタジエンの東南アジア市況が上向くことは当面考えにくい」との指摘が多い。
<「インド注力」に課題も>
こうしたなか、在シンガポールの日系各社のほとんどは「次の有望市場」としてインドを挙げる。この傾向は中国勢なども同じであり、各国からの輸出化学品がインド市場に殺到するなかで物流面の弊害も発生。東アジアからの輸出品はシンガポールかクアラルンプールを経てインドに向かう場合が多いが、とくに「クアラルンプールで滞留が生じている」との声もある。一部ではインド行船舶の積載スペースを中国系タンクオペレーターが買い占める例がみられるなど、採算を度外視した行いも横行している。
グローバル経済が政治・経済要因から逃れにくくなったいま、もはや「機能化学品へのシフト」「差別化戦略」といった施策も先進国勢だけの問題ではなくなった。東南アジアも「汎用品の生産拠点」から「先端品の需要地」へと性格を変えつつあり、域内で活発化する先端半導体向けといった新分野に商機を見出す必要がある。日系各社の多くはすでに全社規模でポートフォリオ転換を進めるなかで先端分野向けのリソース配分を厚くしており、東南アジア拠点は日本の研究開発機能などと連携しながら技術サービス拠点などへと機能を変えていく必要がありそうだ。