機能性化学品を得意とする化学企業による国内投資が活発だ。半導体・電子材料、ヘルス・ライフサイエンス、環境配慮型製品といった分野に加え、ペロブスカイト型太陽電池用途などで需要拡大が見込まれる国産資源のヨウ素、宇宙・防衛関連などの分野にも投資対象が広がっている。
<半導体・電子材料 先端材料のニーズ対応>
ADEKAは鹿島化学品工場にMOR用金属化合物の専用プラントを新設する
ADEKAは半導体の微細化に対応する次世代EUV(極紫外線)リソグラフィー(露光)技術向け金属酸化物レジスト(MOR)用の金属化合物の専用プラントを新設する。鹿島化学品工場(茨城県神栖市)で約32億円を投じ、2028年4月の営業運転開始を予定する。次世代EUV露光装置の本格導入を見据えて、顧客への安定供給体制を整える。
北興化学工業は岡山工場(岡山県玉野市)で約45億円を投じ、KrF(フッ化クリプトン)光源対応のフォトレジスト用モノマーの新生産棟「合成第10工場」を建設中。27年度第1四半期の稼働を予定する。AI(人工知能)データセンターやAI搭載端末の普及が見込まれる中、国内顧客の増産要請に応える。
東邦化学工業は千葉工場(千葉県袖ケ浦市)で約23億円を投じて電子材料向け微細加工用樹脂の生産設備を増設する計画で、26年末の完成を目指す。
四国化成ホールディングス(HD)は先端半導体向け材料の増産要請に対応するため、新工場「坂出工場」(香川県坂出市)を建てる。投資額は150億~200億円の見込みで、27年頃の操業開始を予定する。同社は半導体・電子材料関連ニーズの拡大を受けて子会社、増田化学工業(高松市)で生産設備を増設し、四国化成工業の徳島工場北島事業所(徳島県北島町)でも実験施設などの新棟を建設する計画で、積極投資が目立つ。
東亞合成は横浜工場(横浜市)で60億円を投じ、高純度液化塩化水素の生産設備を増強した。半導体用シリコンウエハーの高級品種「エピタキシャルウエハー」を製造する際のクリーニングガスで、純度や品質ニーズの高まりに応える生産体制を構築した。有機合成薬品工業は常磐工場(福島県いわき市)で半導体や医薬品、食品などの用途に使われるアミノ酸「グリシン」の製造設備が竣工した。同社は22年に既存生産設備の増強と新規設備の導入に着手し、3年をかけて生産能力を段階的に拡大してきた。
ラサ工業は大阪工場(大阪市)に設備を設け、27年をめどに半導体の製造工程で使用後の高純度リン酸を回収・再生し、再び製品に戻すリサイクル事業に乗り出す。同製品は主に半導体製造の前工程でシリコンウエハーにトランジスタを形成する際の窒化膜のエッチングに使われる薬液。原料の黄リンを全量輸入に頼る中で、原材料を含めたサプライチェーン(供給網)の安定化を図る。
<銅張積層板材料などに熱視線>
半導体パッケージ基板やプリント基板向けで高速通信や基板の大型化などに対応する銅張積層板材料、層間絶縁材料の投資も盛んだ。
日東紡は福島事業センター(福島市)で約150億円を投じてガラスクロスの生産設備を増設する計画で、26年度第4四半期の生産開始を予定する。先端ロジック半導体用途で使われるパッケージ基板の大型化が進む中、低熱膨張特性に優れるTガラスクロスなどの需要拡大に応える。
DICは千葉工場(千葉県市原市)で半導体パッケージ基板の層間絶縁材料やソルダーレジストなどに使われるエポキシ樹脂の新プラントを建設する。投資額は90億円超となる見通しで、29年7月の供給開始を予定する。日鉄ケミカル&マテリアルは九州製造所(北九州市)で数十億円を投じ、27年に低誘電特性に優れる熱硬化性ビニル樹脂の生産設備を新設する。
デンカは千葉工場(千葉県市原市)で低誘電特性に優れる有機絶縁材料の生産設備を建てる。投資額は約70億円で、26年度の竣工を予定する。クミアイ化学工業子会社のケイ・アイ化成(静岡県磐田市)は半導体材料などに使われるビスマレイミド類の新プラントを完成させた。
<EV、中長期的な成長見据え>
足元で電気自動車(EV)市場の成長は鈍化傾向にあるが、中長期的な市場拡大を見据えた投資も行われている。
東亞合成は名古屋工場(名古屋市)で約38億円を投じ、リチウムイオン2次電池(LiB)向け負極用バインダーの増産体制を整えた。電池容量の向上につながるシリコン系負極材の普及と、経済安全保障の強化を受けて国内で蓄電池のサプライチェーン構築の動きが進んでいることに対応する。
第一工業製薬は四日市工場霞地区(三重県四日市市)でLiB向け負極用水系バインダーの新たな生産設備を建てる。投資額は約30億円で、27年度の稼働開始を予定する。
<ヘルス・ライフサイエンス 化粧品原料など増強>
デンカは鏡田工場で抗原検査キット、検査試薬の製造用新棟を設けた
ヘルス・ライフサイエンス分野では、テイカが日焼け止めなどの化粧品に配合する紫外線(UV)防御向け無機系機能性微粒子の新生産拠点「熊山工場第4工場」(岡山県赤磐市)を完工した。投資額は約50億円で、26年春の本格稼働を予定する。
堺化学工業は小名浜事業所(福島県いわき市)で27億円強を投じ、化粧品原料や電子材料の開発・生産体制を強化する。化粧品原料の新生産設備は26年2月の竣工を予定する。
デンカは五泉事業所鏡田工場(新潟県五泉市)で約122億円を投じ、抗原検査キット、検査試薬の製造用新棟を設けた。国内外での感染症対策ニーズの高まりに対応し、25年1月から順次稼働を開始している。
<環境配慮型素材 CO2活用、広範用途に>
カーボンニュートラル(脱炭素)やサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けた取り組みが広がる中、環境配慮型素材の投資も活発化する。
神島化学工業は自社工場の生産工程で発生する排ガス中の二酸化炭素(CO2)を回収し、アルカリ廃棄物と反応させて炭酸化合物をつくる独自技術を持つ。詫間工場(香川県三豊市)で24年に同技術の設備投資が完了し、26年にはCO2由来の炭酸化合物を原料につくるCO2固定化商品の第1弾の設備投資が完了する計画だ。
大日精化工業は子会社、浮間合成(千葉県佐倉市)でCO2を原料に利用するヒドロキシポリウレタンのパイロットプラントを設け、26年3月期までに稼働させる。環境配慮型素材かつガスバリア性などに優れ、食品包装など幅広い用途向けに訴求していく。
<ヨウ素 発電層向け増産相次ぐ>
K&Oヨウ素は千葉工場で精製設備を増強した
日本のヨウ素の生産量はチリに次ぐ2位で、約30%のシェアを握る。経済産業省が「次世代型太陽電池戦略」で示したペロブスカイト型太陽電池の40年の導入目標(約20ギガワット規模)が実現すると、ヨウ素換算で年200~300トン程度の需要が見込まれる。ペロブスカイト型太陽電池の実用化に向けた実証が国内でも進む中、発電層に使われるヨウ素の増産に向けた動きも相次ぐ。
日本触媒子会社の日宝化学(東京都中央区)は25年9月、ヨウ素を含む「かん水」をくみ上げる新規井戸の掘削に着手した。約30億円を投じて30年頃までに8本の井戸を建設する計画。併せて、廃液などからヨウ素を回収するリサイクルにも力を入れ、ヨウ素の生産能力を約1割引き上げる。
AGC子会社の伊勢化学工業は新規井戸の開発や自社開発の設備更新などに経営資源を投じる。合同資源(千葉県長生村)はリサイクル設備の増強や中核設備のブローアウト塔の新設で28年度に生産能力を1割強引き上げる。K&Oエナジー傘下のK&Oヨウ素は千葉工場(千葉県白子町)で精製設備の増強などを進め、30年代に生産能力を現状比で2割以上引き上げる計画。
三菱ガス化学子会社の東邦アーステック(新潟市)は24年にヨウ素を生産する新設備を立ち上げた。ENEOSHD傘下のENEOS Xplora(エクスプローラ)やINPEXも増産を計画する。
<宇宙・防衛関連 地政学リスクを追い風に>
カーリットの赤城工場では防衛用固体推進薬の量産体制構築が進む
地政学リスクの高まりに対応する防衛費の増額などを受けて、化学企業も宇宙・防衛関連分野の積極投資に動く。
日油は防衛関連製品の早期装備化関連で29年までに総額1000億円の設備投資を計画する。愛知事業所武豊工場(愛知県武豊町)で生産設備を増設し、子会社の日本工機の白河製造所(福島県西郷村)でも生産設備を新設する。
カーリットは群馬工場(群馬県渋川市)でロケットの固体推進薬原料となる過塩素酸アンモニウムの生産能力増強、赤城工場(同)では防衛用固体推進薬の生産拠点建設を進めており、27~28年度の稼働開始を見込んでいる。