化学・素材企業のヘルスケア関連事業に、成長の浮沈が見え始めた。既存事業とは異なるビジネスモデルによる次代の収益の柱として育成に努めてきたが、拡大戦略により成長する企業と戦略の見直しや事業売却などの構造改革に迫られる企業と明暗が分かれている。2026年度以降、各社が講じる新たな打ち手に注目が集まる。
<旭化成、成長分野軸に相次ぎ投資>
好調なのが旭化成だ。30年近傍にヘルスケア領域の売上高1兆円規模への拡大を狙う。医薬や医療機器、医薬品の製造部資材、開発・製造受託(CDMO)など事業範囲を広げており、各分野での投資も相次いで実行している。足元では除細動器などを手がけるゾール・メディカルや欧米製薬などのM&A(合併・買収)が奏功しており、ヘルスケア領域の業績が急成長している。24年に買収した欧製薬カリディタス・セラピューティクスの慢性腎疾患薬などの貢献が上振れており、さらなる成長を目指し追加の拡大投資も計画する。
他方、診断薬事業を長瀬産業に、血液浄化事業をプライベートエクイティファンドに売却するなど、シェアを握っていた事業にもメスを入れた構造改革も断行した。選択と集中により、重点成長事業に位置づける分野への経営資源の投下を図る考えだ。
カネカは、血液浄化器やカテーテルなどの医療機器を展開するメディカル事業が順調に拡大しており、投資を惜しまない。25年1月にイスラエルのベンチャー企業を買収し新技術を取り入れるほか、11月にはゼオンメディカルなどの買収を発表し、消化器領域(内視鏡処置具)のラインアップ拡充を決めた。ゼオンメディカルの買収により同領域の国内シェア3位に躍り出る見通しだ。
北海道では医療機器の新工場を建設。血液浄化器プラントに約100億円(当初公表)を投じ、生産能力を引き上げた。カテーテルの新プラント建設にも約100億円を投じる計画で、さらなる事業拡大を推し進める。
<住友化学、基幹品伸長で医薬再浮上>
住友化学は、住友ファーマがパテントクリフ(特許切れにともなう減収影響)による業績悪化で一時大幅な赤字に転落したが、基幹製品の伸長や日米事業への集中、事業構造改革が奏功し再浮上した。新たな成長の種として期待を寄せる再生・細胞医薬事業では、パーキンソン病治療向けのヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来製品の実用化が近づく。
成長を見込む農薬などのアグロ&ライフに経営資源を投じているほか、次代の成長の柱であるアドバンストメディカルでは、市場の拡大が予想される細胞医薬CDMO事業での新棟の建設や、オリゴ核酸CDMO需要の取り込みを狙った米国ラボの開設を実行。先行投資の手を緩めず、成長事業の育成に力を注ぐ。
帝人は、22年度に大幅赤字を計上したことから、収益悪化の原因となる複合成形材料、アラミド繊維、ヘルスケアを「課題3事業」と位置づけ、構造改革を進めてきた。ヘルスケアは睡眠時無呼吸症向けの持続陽圧呼吸療法(CPAP)機器が好調の一方で、住友と同様に主力の痛風薬「フェブリク」のパテントクリフに対する手立てが課題となっていた。
全社的な収益性改善計画の実行や、希少疾患・難病に照準を定めた事業基盤の見直しにより、ヘルスケアの不振も底を打ち26年度以降に再成長に向かうめどが立ちつつある。欧製薬アセンディス・ファーマから導入した希少疾患薬3剤も、24年末に1剤目を承認申請、2剤目も国内最終治験に進むなど、計画が順調に進む。26年度からの新中期経営計画で、ヘルスケア領域の飛躍に向けた打ち手を示す見通しだ。
東レは、ライフサイエンス分野の事業戦略の転換が急務だ。医療・医薬事業は、付加価値創出モデルに乗せきれるか、東レがベストオーナーであるかを判断すべき「構造改革事業」の一つと位置づけている。26年度からの次期中計で検討を進める方針だ。大矢光雄社長は非コア事業として医薬などを挙げ「思い切った構造改革を行う」考え。医薬は「基本的にライセンスビジネスに切り替え、既存事業で儲からないものは撤退する」方向で、「医療材も勝てる商材であるかを吟味する」としている。
<JSR、半導体材集中で切り離し>
JSRは半導体材料事業に経営資源を集中する中、ライフサイエンスをノンコア事業と位置づけ、切り離しを進めている。25年4月にトクヤマへの体外診断薬事業の売却を発表。10月にはさらに、オムロンヘルスケアへの不整脈などのスクリーニングと診断に利用する医療機器事業の売却や、独メルクへの抗体医薬の精製工程で用いるプロテインAアフィニティ担体の製造・販売を手がける「バイオプロセス材料事業」の売却を相次ぎ公表した。
堀哲朗社長は「グループシナジーも薄く、非中核事業と位置づけざるを得ない」との認識で、今後の焦点はバイオ医薬品CDMOの動向に移る。赤字が続く中でまずは収益改善策で黒字化した後に、売却を目指す方針だ。
AGCはライフサイエンス部門の25年度の営業利益が200億円の赤字に追い込まれる見通しだ。不振の要因は、バイオ薬CDMOで、16年以降、M&Aで売り上げ規模を急成長させてきたが、新型コロナによるワクチン特需の消失やウクライナ紛争にともなう設備の立ち上げの遅延、米国の高金利に起因するバイオベンチャー不況などが重なって23年から収益性が急速に悪化した。
打開策として、ベンチャー不況の影響を受けて生産を凍結していた遺伝子細胞治療薬CDMOのロングモント、さらには、2万リットルの大型ステンレススチール(SUS)培養槽2基を抱えるボルダーから撤退を決断。大型薬を扱うSUSに対し、今後は希少疾患など中小型薬に適した2000リットル級のSUBでの生産に特化する方針だ。
<三井化学、重点地域絞り収益改善へ>
三井化学は、長期経営計画で「成長の一丁目一番地」と位置づけるライフ&ヘルスケアソリューション領域で、ビジョンケア、農薬に続く第3の柱の育成に腐心している。とりわけ、期待していたオーラルケアは、期待値に満たない再構築事業と位置づけ、まずは販売拠点の整理やコスト削減などの自力の構造改革で2ケタ億円後半のコア営業利益の確保を目指す方針。経営のリソースが分散し過ぎていたことが収益性の低さにつながってきたとの認識の下、アジアなどの販売機能の縮小や中国工場の生産を停止し、独ヴァッサーブルクの工場に生産を集約。重点地域を米州とEMEA(欧州、中東およびアフリカ地域)に絞り込み収益改善を急ぐ。