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  • タイ特集 医療基盤に日本の産官学が熱視線
  • 2025年7月28日
    • 日本の国立がん研と協業しているタイ最大のシリラート病院
      日本の国立がん研と協業しているタイ最大のシリラート病院
     タイの医療基盤の発展に日本が産官学を上げて熱視線を向けている。医薬品医療機器総合機構(PMDA)やアカデミアの国立がん研究センター中央病院が、タイのバンコクに初の海外拠点を設立し、現地の関係者とも協業しながら東南アジアで医薬品開発や各国規制当局への薬事承認を行うための環境整備に本腰を入れ、企業のアジア展開を後押ししている。産業側も大手製薬企業を筆頭に、タイの制度や医療ニーズに応じた医療用医薬品やワクチンの成長戦略を模索している。

     <承認審査期間を大幅短縮>

     PMDAでは、製薬企業がASEAN(東南アジア諸国連合)に医薬品を申請する際、日本で承認された医薬品であれば各国の規制当局による審査期間を大幅に短縮できる制度を構築した。PMDAが作成した審査報告書の英訳版を当局に提出することによって審査期間を短縮できる。日本とASEAN諸国の規制調和が進めば、製薬企業のアジア進出を後押しし、アジア治験の活性化にもつながる可能性がある。さらに将来的には、欧米企業にとっても日本を含めたアジア展開の優先度が増し、結果として日本のドラッグロス解消にもつながると期待されている。

     規制調和の中心的な役割を担っているのが、昨年7月にバンコクに設立したアジア事務所だ。ASEAN各国の規制当局と意見交換を重ねている。

     各国規制当局の協力を得たことで、日本を「参照国」と位置づけるタイやマレーシア、インドネシア、フィリピンで制度の導入が進み、とくに審査期間が長いとされているベトナムでも導入に向けた最終段階にある。最終的には日本とASEAN諸国の薬事対応の一体化を目指す。

     <アジア全体で大規模臨床>

     国立がん研も、21年にバンコクで設立した「アジア連携推進タイ事務所」を拠点に、同センターが主導するアジア地域における臨床試験・治験ネットワーク構築事業「ATLASプロジェクト」を展開。日本医療研究開発機構(AMED)の支援の下、アジア各国の医療機関や専門人材との交流を重ね、アジア全体で大規模臨床試験を共同で実施するための体制やネットワーク構築を図っている。タイ最大規模の大学病院であるシリラート病院(バンコク)など8つの国・地域で40拠点が参画している。

     国立がん研としては、市場規模の限られた希少がん薬など採算性の問題で企業単独では開発が難しい医薬品や医療機器を対象としたアジア大規模共同臨床試験の実施を企業向けに提案していく。製薬企業や医療機器メーカーにとっては、ATLASプロジェクトのネットワークの活用で、1カ国では開発が困難ながん患者の登録をアジア全体で効率的に進めることができ、通常では臨床試験業務受託機関(CRO)への委託などで生じる開発費用を抑えながらアジア進出できる。

     <日系製薬がシェアを拡大>

     タイの医療用医薬品市場をみると、すでに大手を中心に日系製薬企業が複数進出している。市場規模は24年で約72億ドル、ASEANの中ではインドネシアに続く2位に位置する。タイの公的医療保険制度は、国民の約7割が加入し、「30バーツ(約130円)医療」とも呼ばれる国民医療保障制度(UC)、2割が加入する民間企業の被雇用者が対象の社会保険制度(SSS)、7%が加入する政府系職員が対象の公務員医療給付制度(CSMBS)の3種類があり、タイ国民は幅広く医薬品アクセスが可能となっている。UCやSSSは基本的にはジェネリック医薬品(後発薬)が収載され、新薬はCSMBSで適用される。

     タイに営業拠点や工場を有するMeiji Seika ファルマでは、外部から医療用医薬品のタイでの権利を積極的に導入し、新製品として続々と投入している。この5年間で閉塞性血栓血管炎薬「オパルモン」など5製品を導入し、成長を牽引している。

     一方で、持続的な成長には新製品のさらなる導入が急務。1979年の設立時から培ってきたタイ法人「タイメイジファーマシューティカル」の事業基盤を生かし、タイに進出していない企業向けに、「当社が(導入元企業の)販売を支援するというポリシーで、タイ市場での強みを訴求していく」(松本慶太タイメイジ社長)。

     日系最大手の武田薬品工業は、デング熱ワクチン「キューデンガ」について、感染リスクが高まるタイで国家予防接種プログラム(NIP)の適用を目指す。現地法人タイ武田では、これまで民間でのチャネルを通じてデング熱ワクチンを供給。政府機関や蚊よけ製品を手がける花王などと連携してデング熱の啓発活動に注力し、公的医療プログラムとしてのアクセス拡大を推進している。

     タイ武田は、台湾に続く武田の2カ国目の海外支店として69年に設立。ワクチン以外にも、消化器領域やがん、神経精神疾患、希少疾患など約30製品の医療用医薬品を有する。「24年度はタイで最も成長率の高い製薬企業の1つだった」(タイ武田のピーター・ストレイブルジェネラルマネージャー)と話す。
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