AI(人工知能)の社会普及には、業界を網羅した協業や連携が不可欠と考えられている。AIプラットフォームの構築に向けた活動を推進するNVIDIA(エヌビディア)の澤井理紀テクニカルマーケティングマネージャーにAI技術の進展や社会実装に向けた取り組みについて聞いた。
▼…AI技術の現状をどのように見ていますか。
「日本でもAIが日常的に使われ、利便性を実感してもらえている印象だ。従来の人間が作成したプログラムで働くコンピューターと違い、AIは大量のデータを学習し知識やスキルを身につけることで人間では達成できない精度での機能を実践できる。当社のAIプラットフォームも、通信事業企業などでのクラウド型の大規模なものから、自社の施設内にサーバーに設置するオンプレミス型と導入形態も多様化してきた。産業だけでなく高等教育機関での導入も増えており、例えば東京工科大学が、将来の人材育成に向けてエヌビディアのテクノロジーを採用したAIスーパーコンピューターを10月に稼働させる」
▼…日本ではどのようなビジネスを展開しているのですか。
「AIシステムの開発や利用する企業に向けたプラットフォームを提供している。半導体だけでなく、ラックデザイン、冷却、ネットワーキング、ソフトウエアといったシステム全体を網羅した『フルスタック』のアプローチでパートナーとの協業を進めている」
▼…なぜ、画像処理を目的としたGPU(画像処理装置)がAIに利用されたのでしょうか。
「当社が1999年に発表した『GeForce 256』がGPUの始まりなのだが、その後ハード・ソフトを柔軟に制御する『プログラマブル』機能を導入し高度な画像処理を可能にしていく進化があった。06年に発表した『CUDA』は並列計算用のプログラミングモデルとなり、GPUでさまざまな科学計算を行うようになったことがAI適用に結びついた。当社では、AIの将来性を見据え10年代中盤からAIに対するGPUの最適化に取り組んできた」
1999年に発表した「NVIDIA GeForce 256」がGPUの始まり
▼…AIの技術進展は。
「現在、開発テーマの中心となっている『AIエージェント』は複数のAI技術を組み合わせることでより高度なタスクの実行を可能とすることから、幅広い産業での活用が期待できる。その先と考えられている『フィジカルAI』は、現実世界を正確に認識して複雑な行動を可能とする。製造ラインやサービスロボット、自動運転技術などへの適用が期待できる」
▼…その進展に向けた技術開発は。
「25年後半の出荷を予定している次世代GPUとなる『Blackwell Ultra』は、AIエージェントに求められる課題分析と順序立てた処理を行う『リーズニング(推論)』機能を最適化した。既存のプラットフォームのアップグレードにより、同じ電力規模のAIサーバー設備で高性能なAIエージェントを提供できるようになる。今後は、新世代として26年に『Rubin』を、28年には『Feynman』の開発ロードマップを発表している」
▼…高度化するGPUへの課題は。
「電力消費と発熱は課題だ。最新の冷却システムは液冷をベースにしており、従来の空冷よりも電力効率を高めている。AIが膨大なデータを処理するためには高速なメモリーが必要だ。現在採用しているHBM(広帯域メモリー)の進化も期待したい」
▼…世界各国でAIの開発が進みます。
「AIプラットフォームの進化が加速するとポジティブに見ている。特に『DEEPSEEK』はリーズニング機能を持つ初めて公開されたモデルであり、AIエージェントの発展に弾みをつけたと評価している」
▼…半導体のプロセスや材料については。
「プロセスについてはその時点で最も優れたものを採用していく考えだ。AIの社会実装は、半導体業界の協力がなければできない。今後もさらに強力なAIプラットフォームの実現に向けて多くの企業と協力していきたい」
(聞き手=阿桑健太郎、佐藤大希、黒川公美子)
<略歴>
〔さわい・まさき〕2009年エヌビディアに入社。プロフェッショナル ビジュアライゼーションのソリューション アーキテクト、仮想デスクトップ ソリューションの事業開発、コンシューマー マーケティングを経て、現在はエンタープライズからコンシューマービジネスまで、幅広い領域でテクニカルマーケティングを担当。社内外へのトレーニング、報道機関へのブリーフィング、各種イベントでの講演などを通じ、エヌビディアの技術の理解と活用を推進している。