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  • 半導体材料特集 熱マネジメントで魅せるパワー半導体
  • 2025年8月25日
    • 田中貴金属のクラッド材の銅材面(左)と活性金属ろう材面
      田中貴金属のクラッド材の銅材面(左)と活性金属ろう材面
     通常の半導体が演算や記憶などの情報処理を行うのに対し、パワー半導体は高電圧や大電流を扱い、電力を変換したり制御する役割を担う。パワー半導体を絶縁基板上に載せて封止したパワーモジュールは、高い耐熱性や絶縁性、熱マネジメントなどが求められ、材料メーカーの腕の見せ所となっている。半導体材料メーカーは3次元化が進むAI半導体用の先端パッケージ分野で競いつつ、一方でパワーモジュール分野の覇権も争っている。

     <絶縁基板 窒化物や金属基板でEV化トレンド掴む>

    • 日本ファインセラミックスは新工場「富谷事業所西工場」で窒化ケイ素基板を増産する
      日本ファインセラミックスは新工場「富谷事業所西工場」で窒化ケイ素基板を増産する
     絶縁基板はアルミナや窒化ケイ素、窒化アルミニウムといったセラミックス基板が用いられる。アルミナが最も汎用的で、窒化ケイ素は信頼性が高く、車載インバーターなどに使われる。窒化アルミは放熱性の高さが特徴だ。

     UBEは独自のイミド熱分解法を用いて窒化ケイ素粉末を生産する。高品質の窒化ケイ素はハイエンド領域で引き合いが強く、2025年度の稼働予定で生産能力を5割引き上げる。

     トクヤマは窒化アルミニウム粉末のトップメーカー。窒化ケイ素、窒化ホウ素を加えた3種類の窒化系化合物を生産する。窒化アルミニウムは半導体製造装置向けが好調。窒化アルミニウム基板はDOWAメタルテック(東京都千代田区)との合弁会社・TDパワーマテリアルで手がける。市場参入を目指す窒化ケイ素は粉末や基板のサンプル評価を進行中。電気自動車(EV)市場の踊り場である今が評価を進めるチャンスとみて、ユーザーと材料のすり合わせに取り組む。

     デンカは窒化ケイ素、窒化アルミニウムの両基板に加え、金属基板もラインアップする。窒化ケイ素粉末は今年中に生産能力を5割引き上げ、市場ニーズに応える。金属基板はベースに銅材などのメタル材料を用い、樹脂の放熱絶縁シートを上部に貼り合わせ、絶縁性を担保している。金属基板の放熱性が汎用のアルミナ基板に迫っており、安価な金属基板へ置き換えが進む。セラミックス基板に比べ、一体化構造の金属基板は小型化でも有利だ。

     同社は15ワット/メートル・ケルビンクラスの放熱絶縁シートを実用化しており、18~19ワット品の開発に力を注ぐ。フィラー大手のデンカはフィラーの表面改質技術に強みを持ち、フィラーと樹脂の界面熱抵抗を下げることで高い放熱性を実現する。

     住友ベークライトは12ワットクラスをスタンダード品に位置づけ、このほど18ワットクラスの高放熱シートを開発した。12ワット品を搭載した金属基板はアルミナ基板と競合し、18ワットの開発品で窒化ケイ素基板の代替を狙う。すでに車載インバーター向けで採用が決まっており、「セラミックス基板が主流の車載インバーター用途でゲームチェンジを狙う」(同社)と鼻息が荒い。放熱性能は窒化ケイ素基板の方が高いが、金属基板に用いる放熱絶縁シートが薄型であるため、トータルの放熱性能で勝負できるという。生産能力を従来比4倍に増強し、需要の取り込みを急ぐ。

     ADEKAの放熱絶縁シートはエアコンなど民生機器を中心に採用されてきたが、このほど13ワットクラスの高放熱性に加え、耐熱性や絶縁性、密着性などトータルバランスに優れる放熱絶縁シートを開発した。すでにサンプルワークを始めており、多くの企業から良好な評価を受けているという。開発品で車載や産業機器など市場を開拓し、シェアアップにつなげる。

     エポキシ樹脂と窒化ホウ素フィラーを手がける三菱ケミカルは、両製品の知見を組み合わせた放熱絶縁シートを展開する。

     足元のEV市場は減速感が漂うものの、長期トレンドとしてEV化の流れは変わらないとみて、他のメーカーも積極的な動きをみせる。7月、日揮グループの日本ファインセラミックスは窒化ケイ素基板を増産する新工場「富谷事業所西工場」(宮城県富谷市)の竣工式を開いた。金属シリコンを原料とする独自の反応焼結法で生産しており、差別性を武器にEV化の需要を捉える。

     今年、窒化ケイ素基板大手の東芝マテリアルを買収した日本特殊陶業。

     主力の内燃機関事業に加え、買収した東芝マテリアルをテコに非内燃機関事業を拡大する考えだ。

     田中貴金属グループは銅材とセラミックスの接合に用いる活性金属ろう材で新たなソリューションを提供する。市場でペースト状の活性金属ろう材が用いられるなか、板状タイプを開発。板状タイプと銅材を貼り合わせたクラッド材を供給する。パターン形成されたクラッド材をセラミックス基板に載せ、加熱接合するだけの短プロセスを実現できる。ペーストの場合は銅材を載せて加熱接合した後、銅材をパターン形成するためにレジストやエッチング、洗浄などの工程が必要だった。

     <パワーモジュール 幅広い材料を一括提案>

    • レゾナックのPMiC内の展示室にはさまざまなパワーモジュールが並ぶ
      レゾナックのPMiC内の展示室にはさまざまなパワーモジュールが並ぶ
     実際にパワーモジュールに仕上げるには、最上部に搭載するチップが必要で、チップと基板を接合するための接合部材も欠かせない。周囲を封止材で覆い、下部には熱を逃がすための冷却器が取り付けられる。

     こうしたパワーモジュール関連材料のトータル提案に力を入れるのが封止材最大手の住友ベークライト、後工程材料で世界トップのレゾナックだ。

     住友ベークライトはチップを接合するためのシンタリング材、チップを保護するウエハーコート材、金属基板向けの放熱絶縁シートを取り扱い、封止材はケースタイプ向けにエポキシ注型材、モールドタイプ向けにエポキシ封止材料をラインアップ。ケースタイプで使用できるフェノールケースまで取り揃える。「パワーモジュール分野で世界一を目指す」が同社の合い言葉だ。

     これらの材料で必須となるのが高い耐熱性や放熱性。同社の銀ペーストのシンタリング材は銀で高い放熱性を発揮し、樹脂が含まれるため追従性にも優れる。ケースタイプの封止は従来、シリコーンゲルが用いられているが、より耐熱性に優れるエポキシ注型材へ置き換えを図る。ケースは熱可塑性のエンジニアリングプラスチックが主流だが、熱硬化性で信頼性の高いフェノール樹脂に代替する考えだ。

     モールドタイプはケースを用いないため、小型化や軽量化、生産効率化につながる。同社は昨年、炭化ケイ素(SiC)エピウエハー対応の高耐熱エポキシ封止材料を開発。架橋密度向上や樹脂の主鎖骨格の剛直化などでTg(ガラス転温度)240度Cを達成した。こうした幅広い材料を用いてモジュールを試作し、ソリューションを提供していく。

    • 住友ベークライトは12ワット品の放熱絶縁シートを進化させ、18ワット品を上市した
      住友ベークライトは12ワット品の放熱絶縁シートを進化させ、18ワット品を上市した
     レゾナックのシンタリング材は銅ペーストで、封止材はモールドタイプ向けを手がけ、界面の密着性向上に寄与するコーティング材料も取り扱う。ウエハーコート材はグループのHDマイクロシステムズが担当。レゾナックの強みはSiCエピウエハー、アルミ冷却器まで手がける部分にある。

     同社の開発、試作拠点は小山事業所(栃木県小山市)内にあるパワーモジュールインテグレーションセンター(PMiC)。組立装置、評価装置を完備し、試作から評価まで一貫して手がけるのが特徴だ。ユーザーの開発期間短縮に貢献してきたが、今年からさらに一歩踏み込み、ユーザーをPMiCに招いて共創活動をスタートさせた。ユーザーとの距離がより近づき、開発期間のさらなる短縮につなげる。

     <SiCチップ 中国台頭で差別化カギ>

     パワー半導体市場も通常の半導体市場と同じく、シリコン(Si)チップが主流だ。ただ、近年はEV向けを中心にSiCが拡大し、窒化ガリウム(GaN)もスマートフォンやサーバー電源向けで引き合いが強まっている。富士経済によると、35年にはSiC、GaNに酸化ガリウム(Ga2O3)も加えた次世代パワー半導体の構成比が全体の45%に達し、55%のSiに迫るという。

     SiCは中国勢が台頭し、影響を受けた大手の米ウルフスピードが今夏に破産を申請した。中国勢はSi市場にも触手を伸ばしており、チップの優位性は薄れつつある。こうしたなか、SiCエピウエハー外販トップのレゾナックは、同社のSiCウエハーに同社がエピ層を形成する「RECオンREC」のSiCエピウエハーをハイグレードに位置づけ、ハイエンド領域で差別化を図る。

    • セントラル硝子が溶液法で試作した6インチのSiCウエハー。27~28年度の事業化を目標に掲げる
      セントラル硝子が溶液法で試作した6インチのSiCウエハー。27~28年度の事業化を目標に掲げる
     既存の昇華法と差別化を図り、溶液法でSiCウエハーの事業化を目指すのがセントラル硝子とオキサイドだ。溶液法はSiの単結晶インゴットの製法に近く、生産性や大口径化で有利とされる。低温プロセスで欠陥数も抑えやすい。両社はGa2O3ウエハーの開発も進めており、次世代領域でのゲームチェンジを狙う。

     コストダウンを目指し、「貼り合わせSiC」も登場した。多結晶SiCウエハーを支持基板とし、上に薄膜の単結晶SiC層を載せたもので、1枚の単結晶SiCウエハーから10枚以上の単結晶SiC薄膜層が得られるため生産性が高い。

     昨年、東海カーボンはフランスの半導体材料大手・ソイテックに多結晶SiCウエハーを中長期で供給する契約を結んだ。その後、レゾナックがソイテックと8インチ貼り合わせSiCウエハーの共同開発契約を締結。レゾナックは単結晶SiCウエハーを供給する。

     今年に入って住友金属鉱山は、SiC貼り合わせ基板事業を手がける子会社・サイコックスの吸収合併を発表した。平坦性に優れる多結晶支持基板の供給、貼り合わせ技術のライセンス供与を組み合わせたビジネスモデルに取り組む。
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