松尾氏
<人材不足、経験不足が深刻化する製造業の安全維持はどうする 保安力向上センター 会長 松尾英喜氏>
安全は非常に不安定であり、安全を支える安全基盤、安全文化がぐらつくと安全そのものが不安定になります。安全は社会の価値観、経済状況、人や組織、技術の変化などの影響を受けるので、何もしなければ劣化します。常に環境変化に対応して継続的な改善が必要です。
産業界が抱える保安力の課題として①経験のあるベテランオペレーターの減少②事故のリスクに対する感性、リスク対応力の低下③若い人材の採用難、教育④コミュニケーション不足、チーム力低下などが挙げられます。日本の製造業は優秀な人材が支えてきましたが、こうした変化によって安全に対する懸念が高まっています。
保安力向上センターでは人材不足と保安力強化をテーマに検討会を立ち上げました。実態調査のため会員会社にアンケートを行い57工場から回答がありましたが、人材不足では大半の工場が非常に厳しい状況にあることが分かりました。オペレーターだけでなくメンテナンス人材の不足も深刻です。離職率では20代の割合が高く、平均は3~5%だが、大工場では毎年50名前後が辞めていることになります。年齢構成ではオペレーターの若返りが急激に進む一方、40代の割合がかなり低い工場が多くなっています。
人材確保難、離職率の上昇、年齢構成の若返り、中間層の減少が重なると、現場の負担が重くなり育成や技術伝承の時間が取れなくなる。それによってトラブル対応力など現場力の低下につながり職場文化にまで影響し、モチベーション、エンゲージメントが低下し、それが離職率の増加につながるといった「負のスパイラル」に陥り、この繰り返しでは状況は悪くなる一方です。人材不足の抜本的な対応に向けて、具体的な課題を設定して議論することが必要です。
人材確保では、まず安定的、安全にプラントを維持できる人材確保が必要で、学卒、女性オペレーター拡大、外国人活用の可能性が検討課題になります。離職率の増加に対しては少なくともキーパーソンの離職を食い止めるための対策が必要で、夜勤人員の削減も検討しなければなりません。年齢構成の若返り、経験者の減少ではAIやDXでどこまでカバーできるのか、それらの活用によって発生する課題の把握が求められます。モチベーション、エンゲージメントの低下では給与面の検討はもちろんですが、自己実現、自己成長を推進する方策を検討するべきです。
これらの課題を解決するためには個社での対応には限界があります。企業間連携、地域連携、官民協力を進めていく必要があります。