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  • ケミカルマテリアルJapan2025 第10回産業安全フォーラム パネルディスカッション
  • 2025年12月16日
    • パネルディスカッションのようす
      パネルディスカッションのようす
     <パネルディスカッション 化学プラントの人材確保と育成~安全維持のための未来戦略~>

     座長を務める松尾英喜氏は「将来に向けて検討していくべきテーマをいくつか取り上げたい」とパネルディスカッションの目的を説明。まず人材不足の現状について、荻野耕一氏は「コンビナートが集中している首都圏も競争が厳しく採用が難しくなっている」と報告。グループ会社、協力会社などでも採用が厳しくなっているとの声が聞かれているという。井上滋邦氏は海外工場の動向について「東南アジアでは人材のレベルに合わせてマニュアル化を徹底している」と事例を紹介した。

     松尾氏は「人手不足への対応として省人化が必要な一方、人材確保に向けて女性オペレーターの活用が重要になる」と指摘。現場の現状について、井上氏は「2010年頃から採用を開始し3交代勤務もやっている。ただ、産休などのライフイベントがあると3交代への復帰が難しいため、オペレーターの経験を生かして保安力向上に関わる仕事を担当してもらうようにしている」と語った。荻野氏も複数の工場で女性を採用していると語り、また「オペレーターの夜勤の業務負荷を減らすため、日中に対応可能な業務は極力昼間に移すことも検討すべき」と提案した。

     人材確保では学卒オペレーターを増やすことも大切。松尾氏は「学生の頃からプラントオペレーションに興味を持ってもらうことが必要」と問題提起。山下善之氏は「学生は化学プラントを見る機会がないので就職先の候補には挙がりにくい」としながらも「共同研究などを通じて知る機会を増やしたり、デジタル技術を使ってシミュレーションのようにオペレーションの仕事を見せれば、デジタル技術に関心がある学生にアピールできるのでは」と語った。

     化学プラントで省人化が難しい要因の一つは火災などトラブルが起きた場合の非定常対応。松尾氏は「個々の計器室で対応するよりも統合計器室でやった方がいろいろな工夫ができるのでは」と提案。山下氏は「定常時では人工知能(AI)でできることはかなりあるが、非定常時は難しいことが多い。しかし、リモート操作技術が役に立つ」とし、「スマートグラスを装着したオペレーターが現場に出て行って、統合計器室がサポートする例がある」とデジタル技術の可能性に言及した。荻野氏は「定修のような操業停止・再開でDXの活用は考えられるが、火災のような非定常時は計器室でも現場でも緊急対応の行動が求められるため統合計器室での応援対応も難しいのでは」とした。

     人手不足、経験不足を補う手段として期待されているのがAIやデジタルトランスフォーメーション(DX)。荻野氏は「KY(危険予知)など安全教育で有望。AIを使ってヒントを出していけば成長速度が高まる」とし、「こうした取り組みは各社もやっているし、コンフィデンシャルな情報がない領域で共同開発などができるはず」と提案した。松尾氏は「AIの利用が進む一方で新しいリスクも出てくる。それを判断、コントロールする人材が必要になる」と課題を指摘。これに対して山下氏は「大事なことはベテランオペレーターを含めてAIが人間の能力を拡張するという視点。AIでいろいろなことができるという前提に立って、最終的な判断は人間が行う。判断する人材の育成は今のオペレーションの延長上ではなく、シミュレーターによる訓練などでAIに対応するエンジニアリングセンスを磨ぐことも可能」と語った。

     安全文化とAIの関係について井上氏は「文化の領域にAIを使うのは非常に難しい。何らかの形で文化を“見える化”して、その数値の変化やばらつきといったデータを学習させる必要がある」とする一方、「KYなどの分野で危険ワードを検知するような自然言語解析的な使い方が考えられる」とした。

     続いて経年化が進む化学プラントのメンテナンスに関わる問題を討議。松尾氏が「画像の活用が有効な手段ではないか」と提案すると、山下氏も「画像認識技術はAIが人間の能力をかなり上回るようになっている」としたうえでエクソンモービル、シェルなど海外の事例を紹介した。井上氏は「昔から指摘されている問題だが、発注者の意向が優先されてスケジュールが決まり、その結果、メンテナンス会社は仕事の平準化ができず人的資源が無駄になっている。地域、業界、行政を含めて改善に向けて連携していく必要がある」と語った。

     松尾氏はさまざまな課題の解決に向けて重要なのは「連携」と強調。山下氏は「規制緩和などでは産官学連携が求められるし、大学では教育の面で貢献できることがある」、荻野氏は京葉人材育成会を例に出し「近隣企業が協力し合い必要な教育を共同で行っている」、井上氏は「各社が持っている保安に関するデータを持ち寄って“ビッグデータ”化するなど、共通する分野で共同開発すれば個社の負担軽減にもつながる」と語った。

     松尾氏は「人材確保、安全維持は現場だけでなく経営の問題。経営トップはもっと危機感を持ってほしい。今回の議論を契機にして議論がさらに深まり、さまざまな連携が形になることを期待したい」と締めくくった。
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