三井化学市原工場のエチレン設備。27年7月に出光の設備を止め、三井の設備に統合・集約する
日本の化学企業が事業構造の転換で大きな節目を迎えている。石油化学・基礎化学品の構造不況が続くなか、各社は生産の適正化を進め企業間の再編が進展中。2026年は方向性が固まる見込み。一方、成長ドライバーに位置づけるスペシャリティ領域で攻めへ転じ、半導体材料、農薬、電池、ライフサイエンスなど「勝ち筋」への資源集中を一段と強める。再編の道筋と成長投資の加速で、成果を示す一年となりそうだ。
<生産最適化へ再編進む 西日本連携やGX実現>
石化の統合・集約は、国内供給体制の持続可能性とグリーントランスフォーメーション(GX)を実現する新技術の実装の両立を目指していく。川上に位置するナフサ分解炉(エチレン設備)は、統合の議論が進み、30年ごろには現状の12基から8基へ減る見込み。25年末には、三井化学と出光興産が千葉地区のエチレン設備について、27年7月に出光の設備を停止して三井化学の設備に集約し、1基化することで最終合意した。
注目を集めるのが西日本連携だ。旭化成、三井化学、三菱ケミカルは各社が保有する全2基のエチレン設備の最適な体制の構築に向け25年8月、有限責任事業組合(LLP)「瀬戸内エチレン有限責任事業組合」を設立。将来の能力削減も含めた生産体制最適化を検討中で、26年の早い段階で方向性が示される見通しだ。
中国の供給過剰と内需縮小という厳しい事業環境に直面する誘導品でも再編の動きが顕在化している。三井化学・出光興産・住友化学は国内ポリオレフィン事業を統合する。26年7月に製造機能以外の販売や開発機能を、27年4月に製造機能も統合し、新体制に移行する。
ポリオレフィンのさらなる企業間連携のほか、他の誘導品でも適正化の検討が進んでいる。
かねて石化製品の市場はシクリカル(循環的)で、4~5年程度の周期で好不況を繰り返してきたが、現在の構造不況は30年代中頃まで続くともみられ、経験のない別次元の悪化に直面している。生産の最適化は「待ったなし」で、その具現化は企業間連携が不可欠、というのが共通認識だ。そうしたなか、次代のための再編は仕上げの局面に入りそうだ。
他方、石化を次世代型に転換するためのカギを握るGXは、バイオ化やリサイクル、二酸化炭素(CO2)の利活用といった原燃料転換の技術開発が進展。しかし、25年にカーボンニュートラル(CN)機運が低迷し、社会システムの整備も遅れている。商業化には巨額の投資が不可欠だが、経営資源を投じる難しさが増しており、業界で広がったさまざまな技術開発は有力な案件への選択と集中に舵が切られる。
旭化成はパイメルを増強する(静岡県富士市)
<「勝ち筋」太く商機探索 農薬・半導体関連など>
成長のけん引役に据えるスペシャリティケミカル分野は、各社が競争優位性を確立する事業に一層注力する戦略が鮮明となっている。
住友化学は有機合成の強みを生かした「勝ち筋」に集中する計画で、その一つである農薬では殺菌剤「インディフリン」「パベクト」、除草剤「ラピディシル」のブロックバスター候補3剤をグローバルネットワークを活用して育成する。もう一方の半導体材料はフォトレジスト、高純度ケミカルを軸に積極的な投資を実行している。今後の成長市場に据えるインドでも商機を探索する。
三井化学は、ライフ&ヘルスケア、モビリティ、ICTの成長領域で投資を厚くする。とくに好調な半導体関連を中心とするICTに厚く配分し成長を加速する。一方で、ライフ&ヘルスでは、ビジョンケアと農薬が収益の柱で、第3の柱の創出が重点課題。オーラルケア、整形外科、検査診断などのメディカル関連で候補となる事業を早期に選択し、集中的に資源を投入して拡大を図る構え。26年がその見極めの重要な年となる。
三菱ケミカルグループは事業ポートフォリオを「構造改革」「収益基盤」「成長ドライバー」「次世代」に再定義した。半導体関連、炭素繊維コンポジットなどの成長ドライバーに積極的に資金を投じ飛躍的な成長を目指す。熱マネジメント材やEUVドライレジスト材料、GaN基板など次世代領域にも投資を振り向けていく。
半導体関連は旭化成も「重点成長」事業に位置づける。半導体保護膜・層間絶縁膜「パイメル」、ガラスクロス、DFR、潜在性硬化剤「ノバキュア」で先端半導体分の需要を獲得し競争優位性を確立している。旺盛な需要に対応するため、昨年、パイメルの静岡県富士市の既存工場での増強を決めた。引き続き、市場動向に迅速に応じ、供給力を高める方針で、26年も強化策の検討、意思決定が進みそうだ。
<提携で国際競争力>
現状、日本の化学メーカーが強みを持つスペシャリティケミカルの分野でも、中国勢の技術のキャッチアップなどを受けて競争が激化している。中国には数千人の研究員を一拠点に抱え、24時間体制を敷く企業もあるとされる。
日本の化学企業が存在感を維持、拡大するには技術で先行し続けるだけでなく、経営資源の厚みを増し、開発から市場実装までの「勝ち筋」を太くする必要がある。スペシャリティ分野でも持続的な成長のために垣根を越えた連携が欠かせない。
26年は、石化の再編の波が加速し、さらにスペシャリティ分野でも提携やアライアンスといった動きが広がる可能性がある。次の成長ステージへ向けた一手に注目が集まる。