山下氏
<AIと人間中心のDX 東京農工大学 名誉教授 山下 善之氏>
生成AIなどに対する期待が高まり、実際に使える人工知能(AI)の事例がたくさん登場しています。化学プラントではオペレーション&メンテナンス(O&M)への活用がDXとしても実現しています。スマートグラスなどの活用による現場作業の効率化、無線型センサーによるプラント機器の常時監視、ドローン活用による高所点検作業、AI制御システムによるプラント運転などの実例があります。
人材不足に貢献するAIの活用例をみると、まずは運転制御が挙げられます。設定値変更などはAIに任せてオペレーターは監視だけですむことが一部で実現しています。予知保全、設備管理もAIによる自動化で、熟練技術者がいなくてもかなりのことができるようになります。人材育成ではARやVRとAIを組み合わせて教育効果の向上が期待できます。知識継承を支援する対話型アシスタント、作業計画や人員配置の最適化なども実現しています。
AIと人との関係はどうなっていくでしょうか。役割分担については人の置き換えが真っ先に浮かびますが、限定的だと思います。AIによる運転支援など置換ではなく補完が中心で、ある程度は自動化しても最後は人が行うことが求められています。意思決定では自動化のレベルが上がるほど例外設計と説明可能性が課題になってきます。人の能力をAIが拡張するという視点も重要です。人だけではできないことをAIと協働してより良くすることが可能になります。
リスクとガバナンスについては、モデル性能がどうあるべきか考えるだけでなくモデル自体を監視する必要があります。人間中心の安全文化とAIの関係も考えなければなりません。人材・組織面ではスキルの移行、学習支援などが考えられるほか、OTとITと安全をかけ合わせた人材も必須になってきます。
プラントの自動化では、手動(レベルゼロ)から完全自律(レベル5)まで6段階あります。それぞれの場面に応じたレベル設定を安全、コストなどを勘案して経営判断として決定すべきです。保全のデジタル化は5段階あります。時間基準保全(TBM)、状態基準保全(CBM)と少しずつレベルが上がっていきますが、こちらもどのレベルで運用するかそれぞれ考える必要があります。
今後の方向性を考えると、完全自動化ではなく責任ある自動化を目指すべきです。AIと人との協働によって意思決定品質が向上できますが、「AIは操作を賢くし、人は目的を賢くする」ともいえるでしょう。設計対象はモデルではなく、人とAIの協働プロセスだと思います。