2027年の量産開始に向けて着々と準備を進めるラピダス。北海道千歳市の工業団地に生産拠点「IIM」を構え、最先端ロジック半導体の量産を目指している。特徴はゲートオールアラウンド(GAA)トランジスターを軸とした2ナノメートルノードと、1枚1枚ウエハーを処理する枚葉式の生産プロセスにより半導体設計、前工程、後工程の全体で設計・試作・改良のサイクルを高速で回す「RUMS」構想だ。世界的に人工知能(AI)半導体などの開発が激化するなかで、世界最速のサイクルタイムによる優れたデバイスの高速な具現化を目指す。
<2ナノ量産準備着々>
披露した2ナノ半導体の試作品
ラピダスは22年8月に設立。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトで技術開発を推進。同年12月に設立された技術研究組合最先端半導体技術センター(LTSC)はラピダス・東哲郎会長が理事長となり、物質・材料研究機構や産業技術総合研究所(産総研)、理化学研究所などが参画した。合わせて米IBMと長期的な戦略的パートナーシップを締結し、GAAプロセスの技術移転に着手。日米連携による2ナノメートル世代半導体の集積化・短生産時間(ターンアラウンドタイムTAT)の開発を進めてきた。
前工程では23年には欧州imecのコアパートナープログラムに参加。IIM-1を着工した。24年にはテンストレントとの協業を発表。米シリコンバレーにラピダスデザインソリューションズ(RDS)を開設し、北米での顧客開拓、設計支援を始める。人材育成に向けては北海道大学と連携協定を締結。半導体設計ソフト(EDA)ベンダー大手の米シノプシス・米ケイデンスとも協業し、ユーザーが半導体設計に使用するプロセスデザインキット(PDK)の開発も並行して進める。
25年からIIMの試作ラインの稼働を開始。国産AIインフラ提供に向け、プリファードネットワークス(PFN)やさくらインターネットと合意締結するなど、用途先の開発も活発化する。6月にはEDA・デジタル化(DX)ソリューション大手の独シーメンスも協業。足元では一部顧客でPDKの評価を開始した。7月にはGAAトランジスターのテストパターン(TEG)作成に成功。先端半導体の量産が可能なファウンドリー(前工程受託工場)としての立ち上げに向かい着実に成果を重ねる。
試作ラインが稼働中のIIM-1
生産拠点のIIMは蘭ASMLの極紫外線(EUV)露光装置など、シングルナノメートルノードに対応した設備を導入。屋上には太陽光発電とともに水槽を設け、半導体生産にも悪影響を及ぼす宇宙線の影響を抑えるなど、さまざまな工夫を凝らしている。現在立ち上げを進めているIIM-1に加えて、さらなる量産に向けたIIM-2の建設も予定している。
後工程では24年10月にIIMに隣接するセイコーエプソン千歳事業所内に開発拠点「ラピダスチップレットソリューションズ」(RCS)を開設。26年4月の研究開発活動開始を予定する。約9000平方メートルのクリーンルーム内に装置を設置し、現在もNEDOプロジェクトなどで進める「2ナノメートル世代のチップレットパッケージ設計・生産技術開発」に役立てる。
後工程では生産自動化も含めた2・5D/3D量産体制の確立に向け、前工程と同様にIBMとパートナーシップを締結。独フラウンホーファーやシンガポール・Aスターなどとも連携し、チップレットやハイブリッドボンディングなどを合わせた後工程の確立と、前工程と融合した開発・量産体制の構築を目指している。
<最適設計を最速で>
ラピダスが最大の強みとするのがRUMSだ。同社によると、通常の複数枚を同時に処理するバッチでは1パラメーターの検証に50~100時間費やす。枚葉式ではその検証を1時間で行えるとし、AIを活用したデータ分析やそのフィードバックが高速で可能になる。装置間の待ち時間も解消されるため製造期間の4割削減を試算。さらにロット枚数を通常の25枚から12枚に減らすことで、工程時間も6割短縮できるとみる。
同社は生産ラインの稼働までの時間を半分に削減可能とし、とくにAI半導体など競争が激化する領域では高速な製品投入が顧客の事業競争力強化につながるとみる。製造データの設計への反映も早くなり、生産・製品開発の両面で高速化で差別化していく。
ウエハー製造だけではなく、全体の最適化も前面に押し出す。従来は前工程のチップ設計後に後工程の実装を設計するため、実装時にチップ側の設計へ手戻りすることが困難。そこでラピダスは前工程から後工程まで一貫した「リファレンスフロー」を構築し、実装まで含めたデバイスの設計検討や、両方を合わせて試作しながらの改善を可能にする。
大電力のAI半導体ではチップの熱問題やメモリーの配置、バスの設計など実装時の課題も多い。後工程を含めたデバイス設計の複雑度が上がるなか、設計最適化と迅速な量産という困難な課題をRUMSで両立できれば、高度なデバイスを短時間で具現化できる。AIの利用によりデータセンターの消費電力の爆発的増大も予想され、モデルのハードウエア実装など省エネ化の検討も活発化する。用途に応じたAI半導体を提供できるようになり、エネルギー問題の解決への貢献も期待されている。
量産に向けて、もう一つ課題となるのが設計ツールのPDKだ。半導体の設計には半導体の機能を配置する論理設計と、実際の物理的な形状に落とし込む物理設計があり、製造に即したPDKを用いる必要がある。既存の設計フローの適用や、回路の知的財産(IP)導入のためには、設計ソフトウエアEDAとの連携も重要だ。シノプシスとはAIベースEDAの利用やプロセス感度・バラツキのモデル化。ケイデンスとは背面電極(BSPDN)や広帯域メモリー(HBM)などのコンポーネント対応、シーメンスとは検証ソリューションの活用と、それぞれの得意領域と密に連携することでPDKの迅速な提供につなげる。
<「北海道バレー」の中核に>
ラピダスを核にした地域貢献の動きも始まっている。北海道が進める「北海道半導体・デジタル関連産業振興ビジョン」では、同社や道内半導体関連企業、北海道大学と公立千歳科学技術大学との共同研究や人材育成の枠組みを設置。すでに北海道大学の学生が見学に訪れるなど、地域での取り組みが進む。
ラピダス・小池淳義社長が提唱した「北海道バレー」では、IIMとともに材料・装置を含む半導体サプライチェーンの企業が結集しつつある千歳市にとどまらない広域連携を想定。データセンターや風力発電所などを要する石狩市から、苫小牧港による半導体材料の海運を担う苫小牧市まで産学官の協力による産業活性を描く。今年5月には千歳市を含む36団体により「北海道バレービジョン協議会」が設立され、具現化に向けた取り組みを加速している。