高性能化の一途を辿る先端半導体。微細化や低消費電力化、コスト低減など立ちはだかるハードルは数多い。ブレークスルーには革新的な材料や技術が欠かせず、各方面で実用化に向けた研究開発が進む。新たな材料や技術の導入は、ゲームチェンジの可能性を秘めており、業界の主役が一気に変わっても不思議ではない。どの最新技術にも商機が眠っている。
<金属酸化物レジスト(MOR) 微細化に向け開発進む>
EUV光の吸収率が高く、高解像度を実現しやすい
次世代の極紫外線(EUV)プロセス向けのフォトレジスト材料として期待が高まる金属酸化物レジスト(MOR)。従来は化学増幅型レジスト(CAR)が用いられてきたが、微細化の進展にともなって高感度かつ高解像度を実現できるMORに注目が集まっている。MORはウエット型とドライ型の両方で開発が進んでおり、半導体製造装置メーカーを巻き込んでの覇権争いが続く。また、MORの登場によって多層材料やEUV下層膜といった周辺材料も最適化が求められ、新たなニーズが生まれている。
スズなどの金属を含むMORは、EUV光の吸収率が高く、高解像度を実現しやすい。そのためCARでダブルパターニングしていたプロセスをMORで一発でパターニングできるようになり、生産性向上やコスト低減につながる。
先行するのはMORメーカーのインプリアを2021年に買収したJSR。CARに続き、MORでも業界を牽引する考えだ。最初のターゲットはDRAMで、2026年の稼働予定で韓国に工場を新設し、金属レジストの最終調整を現地で行う。MORの使用によってコストを抑えた次世代DRAMの生産につなげる。
インプリアと協業していた東京応化工業もMORの開発に力を注ぐ。MORはネガ型しか存在せず、ネガ型を得意とする富士フイルムも開発を進めているようだ。
ドライ型のMORの上市を目指すのが三菱ケミカルグループのジェレスト。ラムリサーチ、インテグリスを含む3社はドライ型のR&Dで協力しており、実用化に向けて歩みを進める。今年1月にはラムリサーチが2ナノメートルプロセス以下のロジック回路相当においてダイレクトプリントによる28ナノメートルピッチのバックエンド・オブ・ライン(BEOL)の適合認定をベルギーのimecから受けたと発表。着実に技術確立が進んでいるようだ。
ウエットとドライの選択はMORのみならず、EUV下層膜、現像工程にも及ぶ。例えばウエットのMORにドライのEUV下層膜、ウエットの現像プロセスという組み合わせが可能だ。ウエットとドライの争いは半導体材料だけでなく半導体製造装置も絡んでおり、材料メーカーと装置メーカーの協業に熱が入っている。
MORはエッチング耐性にも優れ、パターン倒れの防止にも役立つ。CARの場合は塗布型シリコン(SOG)、塗布型有機下層(SOC)の多層材料が必要になるが、高耐久のMORを用いるとSOGを省くことが可能だ。
金属不純物の厳格な管理が求められる半導体プロセスにおいて、MORを採用することは「諸刃の剣」のように思える。ただ、業界全体の努力によってエッチング耐性の弱いフッ化アルゴン(ArF)レジストの実用化にこぎつけたように、MORも課題を克服して将来的に必要不可欠な材料になるはずだ。MOR市場が本格化するには、これまでのレジスト市場と同じく競合の存在が必要であり、ライバル同士で切磋琢磨することがMOR市場の最大化につながるだろう。
<光電融合 大容量伝送を効率化>
半導体とともに光源など、周辺技術も重要
光信号を半導体・プリント配線板(PCB)に取り入れる光電融合。人工知能(AI)半導体など、大容量・低遅延接続に向けて実用化が急速に進む。単一パッケージ内におくコパッケージドオプティクス(CPO)だけではなくボード間を接続するオンボードオプティクス(OBO)、外部に設置するプラグドオプティクス(PO)など、さまざまな構想・規格が出てきており、既存の光通信のプレイヤーも参入が相次ぐ。高周波関連材料など電気信号関連の部材の需要にも影響が予測され、市場の変化が期待されている。
これまでは多くの情報伝送に電気信号が用いられ、情報を大量に乗せるため信号の高周波化が進んできた。しかし高周波信号は周波数に比例する誘電損失が非常に大きくなり、部材にも特殊なものが求められる。そこで光電融合では伝送経路に光ファイバーや導波路を用いることで、誘電損失を解消し効率的な伝送を実現する。AIデバイスなどでは従来にない大容量伝送が求められ、光電融合に活路を見いだす動きが広がっている。
光電融合に用いる光学素子は電気信号を光に変える発光部、光を電気に変える受光部に大別される。光電変換には光トランシーバーが、光の供給にはレーザー光源が用いられ、モニター用フォトダイオードなども組み込まれる。レーザー光源は発熱が大きく、デバイスと離れた位置に設置する外部光源(ELS)も注目される。
NTTのIOWNではルーターを介さないオールフォトニクスネットワーク(APN)とともに、デバイス間光接続の開発を推進。大阪・関西万博でのサーバーボード間の接続など、設備から機器へと光電融合の利用シーンを拡大している。2028年度にはチップ間、32年度にはチップ内の光化を目指した技術開発を進めてる。
台湾積体電路製造(TSMC)の光電融合パッケージ「COUPE」では、窒化ケイ素(Si3N4)を導波路に採用。電気回路(EIC)と光回路(PIC)を縦に積層し、伝送経路の短縮と、小面積化を実現している。すでにNVIDIA(エヌビディア)が次世代光スイッチへの採用を決定しており、まず1・6テラビット毎秒品を提供。26年には6・4テラビット毎秒まで大容量化を予定する。
プレイヤーの拡大も進む。22年に京都セミコンダクターを買収したデクセリアルズはCPO向け受光素子の提供を開始。古河電気工業は光通信用光源をもとに世界初のELSを開発、ネットワークスイッチ向けに開発を進める。住友電気工業もレーザー光源の大出力化を進め、CPOへの適用を狙う。受発光素子に用いられるインジウムガリウム(InP)ウエハーはJX金属が今年増産を決定。OKIがタイリング技術で小口径のInPウエハーから300ミリメートルシリコンウエハーへの結晶薄膜素子の移設・集積技術を発表するなど、新プロセスの開発も活発化している。
<ナノインプリント 高精度なパターン転写>
キヤノンのFPA―1200NZ2C
半導体プロセス同等の微細加工の大面積化を可能とするナノインプリント技術。半導体の高度化と経済合理性を両立できる技術として期待が高い。キヤノンは、独自の光学および制御技術を導入したナノインプリント半導体製造装置を開発し販売を進める。ナノインプリント・モールド(金型)を手掛けるテクセンドフォトマスクは、9月からナノインプリント製品の受託生産を開始する。富士フイルムは、ナノインプリントレジスト開発を進め、東洋合成工業は、シート材料や成形技術などを提案している。東京応化工業は、半導体の適用を視野に入れたナノインプリント用光硬化性樹脂を開発している。
半導体の高度化は、回路パターンの微細化の進展といえる。その微細化を実現するキーテクノロジーが「露光装置の短波長化」となる。技術進展にともない露光装置が1台数百億円と高価になったことや生産性(スループット)が小さいことから、現状技術の延長で経済合理性を担保できる半導体の高度化の実現が疑問視されてきた。
ナノインプリントは、微細パターン(原版)の刻まれたモールド(金型)を対象物にプレスして、パターンを転写する微細加工技術。露光工程と比較してシンプルなプロセスで、複雑かつ微細パターンの一括形成や大面積処理を可能にする。加熱したモールドをプレスする加熱方式と、プレスしたモールドを紫外線(UV)硬化技術を活用し基材に転写する光(UV)方式がある。UV方式は、加熱方式と比較して短時間で加工でき、変形しにくいことから半導体加工の主流と考えられている。
キヤノンが開発したナノインプリント半導体製造装置「FPA―1200NZ2C」は、多層化する半導体製造に必要な高精度の位置合わせを独自の光学・制御技術により実現。マスクとウエハーの位置ずれを1ナノメートル以下の精度で計測し補正することができる。最先端ロジック半導体製造レベルの5ナノノードにあたる最小線幅14ナノメートルのパターン形成し、マスクを改良することで、2ナノノードにあたる最小線幅10ナノメートルレベルへの対応も期待できる。
テクセンドフォトマスクは、ナノインプリント用のガラス製、シリコン製のマスターモールドを手がけてきた。朝霞サイト(埼玉県新座市)にEVグループの完全統合型ナノインプリント装置「ヘラクレスNIL200」を導入した。ナノインプリント製品まで一貫して手がける考えで、モールド設計からナノインプリント製品の試作・少量産まで対応していく。
富士フイルムでは、ナノメートルレベルの回路パターンを忠実に短時間で転写・形成する「ナノインプリントレジスト」を開発している。東洋合成工業が開発したワーキングスタンプ用樹脂は、パターンを忠実に転写して量産成型品の型を実現する。顧客の評価では量産選定段階に進んでいる。
東京応化工業は、ナノインプリント用の光硬化性樹脂を共同開発した。独自のシリコンフォトニクスプロセスとの組み合わせで、90ナノメートルCMOSプロセスラインや電子線描画で作製された光導波路と同等の性能を確認している。