日清紡マイクロデバイスは、アナログ半導体の垂直統合型(IDM)のビジネスをグローバルに展開する。吉岡圭一社長は、誰もが一度は触れたことがある家庭用ゲーム機のCPU開発からキャリアをスタートした半導体のエキスパート。全体的視点で半導体産業について聞いた。
▼…貴社の半導体事業について。
「アナログ半導体は『光、音、電磁波』といったアナログ信号をデジタル信号への変換や電圧変換など電源系に使用される。当社では、このアナログ半導体について企画・設計、ウエハー製造(前工程)と組み立て加工(後工程)までを自社で完結するIDMのビジネスモデルを構築しており、前工程が埼玉、兵庫、福岡、後工程が佐賀とタイに拠点を有する。兵庫県加東市のやしろ事業所では、0・18マイクロメートルプロセスまで生産可能で、200ミリメートル(8インチ)のシリコンウエハーサイズで生産能力は月産1万枚体制となっている。アナログ半導体は、社会のデジタル化を背景に中長期的には伸長していく見通しで、国内拠点の整備や海外のファウンドリー(半導体受託生産会社)やOSAT(後工程の請負製造サービス)を活用していく考えだ」
やしろ事業所のクリーンルーム
▼…IDM型のメリットは。
「半導体産業は、90年代にファブレスやファウンドリの概念が登場し、経営資源の集中とリスク分散をグローバルで実施し成長してきた。しかし、当社を振り返ると、設計、前・後の各工程で課題を分担することで品質や技術を高めてきた。今後、高精度や低消費電力、低ノイズなどといった特徴ある製品を実現するためにIDMの展開を続けていく考えだ」
▼…貴社視点で現状の事業感の現状認識と今後の見通しは。
「コロナ禍以降の『シリコンサイクル』は周期的な変動幅が大きくなった印象だ。収益の安定化を図るために、自動車関連の売上比率を現在約50%まで高める方針だ。また、高付加価値化戦略としてIDMをフル活用し単体デバイスから複合モジュール製品への展開も進めていく」
▼…地政学リスクについては。
「中国市場については、内製化が急速に進んでおり、アナログ半導体においても、既存メーカーと同等品質の製品が出てきた。中国には顧客も多いことから、内製化の進展を注視している。一方で、国内では地政学リスクを視野に、日本製への回帰もみられ、関連した当社にも引き合いが増えている。近年注目されるインド市場については、将来的な可能性について調査している」
▼…国内材料メーカーへの期待は。
「地政学リスクが払拭できない状況下で、まずは安定供給を期待したい。当社でも長期の供給保証が必要な製品もあるため、国内の材料メーカーからの安定した供給を獲得することが事業継続に必須条件だと考えている」
▼…85年入社とのことですが、キャリアを振り返って。
「入社してすぐ、家庭用ゲーム機のCPU開発に携わった。当時のプログラミングはマシン語レベルで行われていた。今振り返ると、ずいぶん失敗を重ねたが、そこから学んだことは多かった」
▼…AI全盛の現状をどのようにみていますか。
「半導体業界は約10年周期で大きく変化してきた。今後、AI半導体やSoC(システムオンチップ)が自動車などもすべてを制御する時代になっていくだろう。また、新技術の市場予測は難しい。当社は、AI向け半導体周辺で求められる光や音、電磁波などの分野で特徴を出していければと考えている」
▼…国内産業が直面する人材確保については。
「電気・電子系の学生が減少しているなかで、当社ではものづくりに意欲を持った学生を採用している。私も理系出身ながら半導体のことは入社後に学んだので、興味のある若い方にはぜひ挑戦してもらいたい分野だと思っている」
▼…開発現場に戻るとしたら。
「入社してから30年苦労してきたので、今から戻るのは体力的にも疑問(笑)。ただ、当社が保有する複数の技術を組み合わせた新しい製品開発には挑戦したい。半導体業界は変わり続けているため、変化を恐れず自分の得意分野を追求する姿勢は忘れたくない」(聞き手=阿桑健太郎、佐藤大希、黒川公美子)
<略歴>
〔よしおか・けいいち〕1985年(昭和60年)3月関西学院大学理学部卒、同年4月リコー入社。21年リコー電子デバイス取締役、22年日清紡マイクロデバイス常務執行役員コーポレート統括本部経営戦略本部長、23年常務執行役員経営戦略本部長、24年3月から現職。