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  • 石油・化学産業向けDXサミットin大阪 KoA企画・阿部晃一氏 日本流イノベーションの創出
  • 2025年10月28日
     <基調講演1 日本流イノベーションの創出>

     <KoA企画共同代表・取締役 阿部晃一氏(元東レ副社長)>

     日本の製造業が再び世界をリードするためには何が必要なのか。元東レ副社長として長年、技術経営の舵取りを担ってきた阿部晃一氏(KoA企画共同代表・取締役)の基調講演「日本流イノベーションの創出」では、東レでの豊富な経験を基に日本企業が採るべきR&D戦略について語られた。

     講演の冒頭で阿部氏はゴーギャンの絵画を引用、歴史を学び、現在地を把握し、未来のビジョンを持つことの重要性を説くとともに「物事の源流をたどることなく、表面的な組織改編を繰り返すのは最悪の経営だ」と警鐘を鳴らす。その上で、東レの基本戦略であるオーガニックグロース(自社開発技術の事業化を軸とする成長モデル)を紹介。「R&Dが明日の東レを作る、という強固な思想を持ち、基礎研究を重視する文化が根付いている。この哲学こそが数々のイノベーションの土台となっている」

     阿部氏が提唱する「日本流イノベーション」の核心は、日本人の気質を最大限に生かすことにある。具体的には、粘り強い忍耐力によって黙々と目的を追求する「超継続」の思想、創意工夫によるR&D、和を尊びチームで成果を出す総合力、そして異文化を巧みに取り込み自らの力に変える力(技術融合)を挙げた。

     この思想を具現化するため、東レでは「R&Dを軸とした長期視点の経営」「先端材料・極限追求への長期取り組み(超継続)」「シーズ起点の研究支援」「グループ総合力と産学官連携の強化」「グローバルな知財戦略」という5つの方針を重点施策として掲げてきたという。

     特に、分社化せずに技術センターへ機能を集約した組織体制は、東レの「総合力」の源泉となっている。基礎研究は日本国内で行い、そこで生まれたコア技術を基に、世界各国の拠点で現地ニーズに合わせた商品開発を展開するというグローバル戦略を支えている。

     「日本流イノベーション」の真骨頂を示す事例として、阿部氏が詳細に語ったのが炭素繊維事業だ。「始まりは1961年の進藤昭男博士(大阪工業技術試験所)の基本原理発表だが、社内で炭素繊維のアングラ研究を温めていた研究者がいち早く価値を見抜いて本格的な研究開発をスタートさせた。当初マーケットは全く存在しなかったが『未来の航空機材料になる』という明確なビジョンを掲げ、日本人的な忍耐強さで地道な性能改良を続けた」

     炭素繊維事業が大きく花開くのはボーイングの航空機に採用されてからだが、そこに至るまでの長い雌伏の時期を支えたのが「中継ぎ事業」という巧みな戦略だ。ゴルフシャフトや釣り竿といったニッチな用途で炭素繊維事業を展開し、キャッシュフローを確保しながら、来るべき航空機時代に向けて技術を磨き続けたのである。多くの欧米企業が採算の合わない素材事業から撤退していく中、東レが生き残れたのは(1)素材の真の価値を見抜く力と経営陣の強固な意志(2)垂直統合型R&Dと生産技術(3)航空機メーカーからの高度な要求に応え続けた技術力(4)政府の支援(5)中継ぎ事業によるキャッシュフロー確保、という複合的な要因があったからだと阿部氏は分析する。

     講演の終盤で阿部氏は、イノベーションの源泉は「人材」と「知財」であると力説した。人材育成においては、基礎科学力に裏付けられた深い専門性を核としつつ、複眼的な視点や全体を俯瞰する力を養うことが重要であると説き、専門職がその能力を最大限に発揮できるよう、正当に処遇する「フェロー制度」のような仕組みが不可欠だと指摘する。

     知財戦略については、優れた発明と戦略的な出願技術を掛け合わせた「強い特許」の重要性を説き、かゆみ止め薬「レミッチ」の特許訴訟で多額の賠償命令を勝ち取った事例を紹介。また、強い特許と同時にノウハウをブラックボックス化することも、日本の強みを守る上でますます重要になるとの見方を示した。
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