台湾の石油化学産業は、外部環境の変化を受け厳しい状況が続く。台湾の民間石油精製会社である台塑石化(FPCC)では、2024年のエチレン設備の稼働率が56%となり、足元も振るわない。とくに昨年、中国商務部が実施した「海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA)」に基づく関税引き下げの停止が「基礎化学品から樹脂やゴム、フィルムなど広範囲に影響している」(日系化学メーカー)。「中国からの輸入量は当初想定したよりも少ないものの、台湾からの基礎化学品の輸出や誘導品の生産が低調」(現地石油化学メーカー)なもよう。台塑石化では、エチレン製造で原料多角化に取り組むなど、各社とも事業継続に向けた戦略を進める。
<ECFAの影響広範に>
台湾の石油化学産業は、台湾石油(CPC)が1968年に操業を開始したナフサクラッカー(年5万4000トン)が起点とされる。その後、台湾プラスチックグループ(FPG)が加わり、域内のエチレン生産能力は同400万5000トンまでに拡大している。90年代にエレクトロニクス産業に変わるまで全製造業のなかで輸出首位となる分野であった。現在でも生活インフラから、先端半導体産といった受託製造業への原材料供給役を担っている。
ECFAは、中国と台湾で結ばれた自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)に相当する両岸間協定とみなされており、2011年1月1日から、アーリーハーベスト対象品目(台湾側267品目、中国側539品目)の関税引き下げを開始。関税引き下げは3段階で行われ、13年1月1日からは対象品目すべてをゼロ関税とした。23年12月に中国国務院関税税則委員会はパラキシレン、プロピレン、塩化ビニル(クロロエチレン)、(1,3-)ブタジエン、イソプレンなどの12品目の石油化学品に対し関税引き下げ停止措置を発表した。台湾の中国大陸品に対する輸入制限がECFAに違反していることを理由とした。さらに5月に拡大した134品目にはエチレングリコールや酢酸ビニルといった中間体や非イオン有機界面活性剤などの機能品、粘着剤、ポリエチレンテレフタレート(PET)の板・フィルムといった川下領域など47品目が加えられた。
現状では樹脂製の保護フィルムといった半導体関連品などはあまり影響を受けていない一方、「汎用品を中心に中国市場で競争力が低下している」(日系化学品メーカー)。中国市場では、中国品に加え関税の優遇を受けている日本品や韓国品と競争になっている。加えて米国市場では台湾製品に20%の関税がさらに課され、影響が懸念される。
<原材料の調達を多角化>
台塑石化は台塑麦寮工業地区にある3系列のうちの1つのナフサクラッカーをエタン原料への対応設備に改良する
「台湾の産業は需給調整が得意ではない」(日系化学系商社)という声を現地で複数聞いた。半導体需要を見通し域内で増強を実施した銅張積層板(CCL)や銅箔、ガラスクロス、脂環式エポキシ樹脂などの24年の稼働率は6割程度となっており、「今後、関連企業では生産能力が縮小されるだろう」(台湾ローカルメーカー)。域内では、エチレン設備の統廃合などが噂されており、日系化学企業のなかには、パイプラインでの原料供給の停止を想定した原材料の調達多角化の検討を始めているようだ。
域内の化学企業は、事業の独自の生き残り戦略に取り組む。台塑石化は、台塑麦寮工業地区(雲林県)にある3系列のうちの1つのナフサクラッカーをエタン原料への対応設備に改良する。投資額は30億台湾ドル(約150億円)。26年末に完成し、27年の稼働を計画する。改良設備は、エタンに加え液化天然ガス(LNG)やナフサのいずれも原料として使えるようにし、市況に応じてエタン原料への割合を高めて考え。原油調達については、オマーンなど複数国からの調達を検討している。また、高雄の港湾設備を活用した船舶燃料の販売や船舶用潤滑油、バイオジェット燃料などの製造や製造管理への人工知能(AI)導入など多角的な視点で、事業の競争力を高めていく。
<現地評価体制など充実>
花王台湾精密洗浄センターを設置する新竹の研究所
花王台湾では、半導体・エレクトロニクス関連品への展開拡大に向けて、精密洗浄センター(Fine Cleaning Center)を新竹に新設する。和歌山工場(和歌山市)に続く2拠点目となる。オレオケミカル(油脂化学)製品や界面活性剤といった機能材料製品は海外品との競争が年々厳しくなっていることから、ハンダ実装で使用される薬剤であるフラックスなどの現地展開の拡大につなげる。
新設する精密洗浄センターでは、フルパネルサイズとなる510×515ミリメートルまでの大型サンプルに対応する水平搬送型やスプレー型のフラックス洗浄機、微細空隙の洗浄を想定した隙間対応洗浄機など、ユーザーが所有する実機同等の設備を導入する。また、電子顕微鏡といった評価機能も充実させ、顧客立ち会いにより課題解決に向けた実機洗浄評価、結果検証といった洗浄プロセスの開発に必要な評価サイクルをワンストップで提供していく。